「小林啓一監督作としては物足りない」お嬢と番犬くん バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
小林啓一監督作としては物足りない
原作はベストセラー少女マンガとのことで、小林啓一監督初のメジャー系映画。それもあってかこれまでの『殺さない彼と死なない彼女』『恋は光』などに比べて作品にあまり捻りが無く、基本的にきわめてストレートなラブコメ映画となっている。友達はどこまでも主人公の恋を応援してくれるし、悪者もわかりやすく悪者で、一見恋敵に見える人も実はいい人というわかりやすさ。ストレートなラブコメとなると、良い映画に仕上げるためにはとにかくひたすら繊細かつ丁寧に作っていくしかなく、そこはさすが小林監督、おなじみ自然光を使った映像美や繊細な人物描写、丁寧な絵作りとお芝居で魅せてくれる。
俳優陣も主演の福本莉子とジェシーをはじめ、櫻井海音・香音・松井遥南・佐々木希など理想的に適役なヴィジュアルをそろえた布陣となっており、特に福本莉子はその演技力も相まってどのシーンのどのカットを取っても最高に可愛く撮られている。やはり小林監督は女の子を魅力的に撮る天才だ。個人的には途中で2度あった鼻キスのシーンが、ラストの本物のキスシーンよりも悶絶しました(笑)。
ただ、やっぱり『殺さない~』『恋は光』に比べると物足りなさは残る。メジャー系キラキラ映画で、また原作ありきだから仕方がないとはいえ、青春群像劇としてきわめて優れていた前2作に比べて主人公2人以外の登場人物があくまで主人公たちを立てるための記号的存在でしかなく、物語もややご都合主義的展開に感じた。前2作や『逆光の頃』もいずれもマンガ原作ではあるものの少女マンガではなく、また小林監督自らが脚本も書いており、個人的思い入れの強い作品だったと思われる。それに比べると『新米記者トロッ子』や本作は依頼仕事だったようで監督のみであり、小林監督も『トロッ子』公開時にそろそろ他人の脚本の監督もできなければと思ってたみたいなことを言っていた。『トロッ子』は恋愛ものでないところに新味があったし、群像劇という体裁だったんで前2作ほどではないにせよ面白かったんだが、本作は1対1の恋愛ものなんでどうしても比較して物足りなさを感じてしまう。
もちろん前2作が傑作すぎるだけで、本作も単体で観れば十分に面白いんだが、小林監督だけにどうしてももっと上の出来を期待してしまった。