「無欲に見える「まる」の残虐性も、仕掛け次第では「アート」に様変わりしてしまう」まる Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
無欲に見える「まる」の残虐性も、仕掛け次第では「アート」に様変わりしてしまう
2024.10.18 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(117分、G)
偶然描いた「まる」が独り歩きして困惑する売れないアーティストを描いた社会派コメディ映画
監督&脚本は荻上直子
物語の舞台は、都内某所
現代美術家・秋元(吉田鋼太郎)のアシスタントを始めて4年になる沢田(堂本剛)は、自身のアイデアをパクられながらも地道に生きてきた
同僚の矢島(吉岡里帆)はそれを許せず、新人の田中(戸塚純貴)は早くも脱落を示唆していた
ある日、景色に見惚れて自転車事故を起こした沢田は、あっさりとクビになってしまう
特にやることがない沢田は家でぼうっとする時間が増え、隣人の売れない漫画家・横山(綾野剛)と絡むようになった
物語は、家に入り込んだ蟻の周りを墨で囲っていた沢田が、ふと思いついてそれを小道具屋(片桐はいり)のところに持ち込むところから動き出す
小道具屋は「大きすぎる」と言い、沢田はその作品を切って分割する
それは額縁に収まる大きさの「まる」を描いただけの作品になっていて、わずかなお金だけを得ることになった
その後、街角を歩いていた沢田は、ある画廊の前に「まる」が飾られているのを目撃する
画廊が閉まっていたために詳細を聞くことができなかったが、次に通りかかった時には、その「まる」はショーケースから消えていた
映画は、現代アートとは何かというテーマと、そのバズり方や仕掛け方について揶揄するような内容で、意外なほど濃いメッセージがあったりする
最終的に「普通の絵」をディーラー(早乙女太一)と画廊の店主・若草(小林聡美)に見せるものの、「価値がない」と断罪される
やむを得ずにその上から「まる」を描いて見せるものの、これ以上「まる」い囚われたくない沢田は、その作品を殴って穴を開けてしまう
だが、その行為は作品として有名になり、海外の美術館にも飾られるようになってしまうのである
「まる」は「円相」と呼ばれるもので、古くから描かれる芸術の一つである
それが現代的にアップデートされたものになっていて、誰にでも描けるのに、誰もが売れるわけではないという皮肉がある
アートは「誰が描いた」というのが重要で、「さわだ」というサインが作品の本体のようにも思える
だが、コンビニバイトの先輩・モー(森崎ウィン)は、彼のサインを貰わない
これが本作の重要なテーマになっているのではないだろうか
いずれにせよ、かなり画面が暗い作品で、見ていて疲れる内容だった
「まる」の中に何かを見るかは人それぞれで、その「まる」は無欲であればあるほどに価値があるようにも思える
だが、その「まる」のルーツは「蟻をもて遊ぶ残酷なもの」であり、その因果が沢田を苦しめているようにも思える
そう言った意味において、結構哲学的な作品ではあるが、世間がアートと称するものは、そのような本質とはかけ離れたプロモーションによる仕掛けに過ぎないので、その辺りを皮肉っているのかなと思った