「もう少し整理すればきっと緊張感が増すはず」このろくでもない世界で Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
もう少し整理すればきっと緊張感が増すはず
今回は韓国ノワール作品。監督はこれが長編デビュー作だそうだ。
韓国の小さな田舎町では、強いものが弱いものをいじめ、弱いものがさらに弱いものをいじめるような、息苦しくて逃げ場のない(ホープレスな)社会で人々は暮らしている。17歳のヨンギュは借金まみれで酔うと日常的に家庭内で暴力を振るう義父との生活にも嫌気がさして、中華料理屋でバイトをしながら金を貯めて、こんな町を飛び出して母親と一緒にオランダに移住することを夢見ている(韓国語の原題 화란(ファラン)が「オランダ」のことを表しているのはここからきているのであろう)。しかし、現実はそんな夢を見ることを許してくれるほど甘くはなく、バイクを盗んで売りさばいたり、高利貸しをして凌いでいる暴力団組織の中堅幹部であるチゴンから助けを受けたヨンギュは、次第にそちらの世界にはまり込んでいく……。
このどうしようもないやるせ無さを描くのは韓国ノワール作品のお家芸のようなものだが、実は同じような閉塞感を自分の国の社会や政治にも感じ取れるからこそ、他国の観客の共感をも得られるのであろう。本作でも政治家との癒着が描かれるが、政治家が向き合うべき人々と向き合わず、どこか別のところに目が行っているから、人々はこんな生活に甘んじなくてはならないんだよな、とも思わせる。
ただ、政治家の話もあくまでサイドストーリーでちょっと中途半端な扱いになってしまっている。学校の同級生の話も投げっぱなしだし、これらをもう少し整理すれば、さらに緊張感のある作品になりそう。ついでに、女友達の話と妹の話がごっちゃになるので、これを一人の人物に集約させたキャラクターにしておけばよかったのに、とも思った。とは言え、見応えのある作品であることは間違いない。