「踊るファンだったけどこれは酷い」室井慎次 生き続ける者 戒音さんの映画レビュー(感想・評価)
踊るファンだったけどこれは酷い
こちらは前後半の二部作の後半にあたる。
踊る放送時に見ていて、なんならTV版劇場版のDVDも持ってたくらいファンだった。
踊るは登場人物にフォーカスを当てたスピンオフを何本も出してるけど、この2作はなんというか、踊るではなく室井慎次単体のファンなら楽しめないこともないかも?という程度。
踊る、という作品ブランドを期待して見ると、とんでもない肩透かしを食らう。
他のスピンオフ作品はタイトルの人物が事件を解決したりと、警察組織の体制が表現されていて踊るのスピンオフである意味を持っていた。
けれどこの2部作品は主に「室井慎次の警察組織を抜けてからその先の人生を描く物語」だけど、正直、「室井慎次」というキャラクターブランドを除いて、単に「警察組織にいた初老のオジサンが警察を辞めて田舎へ出戻った後の人生の終幕を描く作品」として見れてしまう。
そこに「室井慎次」というブランドは必ずしも必要としない。
映画やスピンオフ作品を見る理由や目的は人それぞれだけど、踊るファンであった自分が見たかったのはあくまで容疑者室井慎次、のような、踊る〜の室井慎次の本編の先の物語だった。
でも事件が起きてもオマケ程度。
目の前で起きた事件に警察時代の血が騒ぐこともない。
ひたすら、田舎はのどかでいいよ〜、とアピールするかのような作品。
単体の室井ファンであれば、そうかー室井さんはあの後こうやって生きたのか、と喜べたのかも知れない。
自分は、物静かで出しゃばりはしないがきちんと締める所は締めてくれる心強い上司であり、お堅いが愛嬌もあり、決して器用とは言えない性分ながら荒波や吹雪の中を夢に向けて一歩一歩進もうとするような、そんな「室井慎次」が好きで、そんな室井慎次のその先が見たかった。
他の誰かでも充分代わりのきくライフスタイルを送る高齢者を見たかったわけではない。
加えて、容疑者〜もそうだし、その後のスピンオフもそうだけど。
途中からプロの演者の我儘で脚本やシリーズの進行が大きく捻じ曲げられた踊る〜シリーズ。
それだけに、それらがなければこの作品で室井慎次が脚本によって殺されることもなかったのだろうな、もっと現役で活躍する姿も見れたんだろうな、と想像できてしまうのが何より辛い。
そういう意味でも、見ていて本当に辛い作品だった。
この作品内で力尽きた室井慎次を殺したのは、雪でも山でもない。脚本と、演者間の揉め事による我儘に過ぎない。