「ネタバレなしでは書けない」室井慎次 生き続ける者 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
ネタバレなしでは書けない
前作はそれなりに楽しめた。室井さんの不器用ながらも実直なところがうまく表現されていたし、3人の里子との関係も問題提起としては十分だった。家の近くで遺体が発見されて、殺人事件として捜査本部が立ち上がったことはあくまで添え物としたのもわかる。
でも本作でキチンと解決させないのはどうなんだろう。室井さんがルールを逸脱して取調室で容疑者と面会(内容的にも取り調べではない)しても、情に訴えるだけだし。それで少しずつ自供を始めたって何だそりゃという感想になる。動機も何も明らかにならないし、解決にはほど遠い。あくまでさらなる続編を作るための布石にしているだけにも見えた。やはりメインはやはり室井さんと里子たちの関係ということ。
その関係を揺るがす事件(若干小さめではあるが)が起こってクライマックスに向かっていくのだが、これもかなり微妙な話。あんなに懐いている飼い犬がリード外したくらいで吹雪の中を見えなくなるまで逃げる?そして室井さんもそこまで危険を冒して探しに行く?ついでに言えば、商店にたむろしていた輩どもは何をもって室井さんに心を許した?一緒にお菓子棚に戻そうだけで改心するなら世の中もっとよくなる。杏のこともだ。あれで改心したのか?そのきっかけがあまりにサラッとしすぎていた。こんな流れで心は動かない。映画という物語を成立させるためのピースを感動しそうな順番に並べ替えて組み立てている感じ。そういえば後半の踊るシリーズの映画もそんな感じで冷めてしまった記憶が甦ってきた。
室井さんが亡くなったであろう展開に、近くの人が鼻をすすっている音が聞こえてきたが、個人的には前述の理由でまったく泣けなかった。しかも亡くなったことを確定させる場面は一つもなかった(と思う)し。室井慎次の表札も掲げていたし。病院か自宅で意識をなくしたまま寝たきりとかなんじゃないか。それでさらなる踊るシリーズの続編で目を覚ますとか。そんな妄想が頭に浮かんだ。青島の登場で次回作への期待が高まるはずなのだが、本作の出来を考えると期待値は下げた方がいいと思ってしまう。