「お疲れさま、柳葉さん。ありがとう。」室井慎次 生き続ける者 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
お疲れさま、柳葉さん。ありがとう。
どう評価をしたらよいのか難しい、というのが鑑賞直後の率直な感想。
前後編2部作の映画単体で評価を求められたら、厳しい点数を付けることになると思う。
前編で蒔きまくった伏線の回収が拍子抜けするほどあっさり、そして室井を取り囲む人々の態度の豹変ぶり、脈絡のなさ、唐突さ。室井の最後とラストシーンも含め、お世辞にも脚本の出来がよいとは言えない。
しかし、シリーズを見続けてきた者としては、こういう内容の作品で一つの区切りをつけたことは、よかったのではないかと思う次第。
フジテレビだけあって宣伝はきっちりやっていたが、一見さんをターゲットにした作品ではないし、大ヒットを狙ってないことは明らかだ。ファンムービーであり、かつ、製作陣自身のための、そして室井慎次≠柳葉敏郎のための映画だったと思う(フジテレビお得意の内輪ネタとは違う意味で)。
この映画の企画自体が、柳葉敏郎を室井慎次という役から解放してあげたい、という製作陣の意思から始まっている。室井という役を演じることすら嫌がった柳葉が、この映画に出て良かったと語っている姿、撮影現場での最後の挨拶を見て、私はそれだけで何かグッとくるものがあった。
映画は作り物だが、ときに映画を創ること、出ること、観ることで人生が大きく変わる人がいる。社会が変わることもある。柳葉敏郎という人も、その影響を大きく受けた一人だったのだろう。苦しんだに違いない。
映画の中身の話を。
他の方々が書かれているように、色々と粗が目立つ作品だった。ただ、その粗さも仕方ないかと許してしまうような、室井という役柄の生き様、そして「許す」「そばで見守る」という無言の慈愛のようなものが、ジワジワと出汁のように滲み出てくるように感じた。その出汁の出方をよくする触媒としての役割を、いしだあゆみが担っていたように思う。
そして、その描き方が、「踊るシリーズ」の冠を付けている以上、完全なヒューマンドラマにまで振り切れきれないことが、中途半端感を高める要因となっていたようにも感じた。
今作で印象に残ったのは、音楽。「WITHOUT YOU」やラストの松山千春「生命」などは武部聡志の選曲だろうが、「正直、ベタだなー」と思った。でも、映画の印象をよりエモーショナルな方向へ持っていく力を感じた。
ラストの去り方。
違和感あるが、「メッセージだけ残して消えるように居なくなる」ためだったのかも。
あの男が、室井慎次の家に入らなかったのは・・・。2人がそれを望まなかったか、製作側が忖度したのか・・・ちょっと後味が悪かった。
いずれにせよ、長きに渡り、多くのファンの心に残る唯一無二のキャラクター、室井慎次を演じ続けた柳葉敏郎さん、お疲れさま。ありがとうございました。
追記:多くの方が、「北の国から」を想起したようですが、私もです。
令和の「北の国から」なんだろうか?
(2024年映画館鑑賞31作目)