「憧れのヒーロー」室井慎次 生き続ける者 AMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
憧れのヒーロー
いやー、よかった。予想の10倍。”踊る”が、ここまでのヒューマンドラマになるとは、想定外。
ちょいちょい古くさい小ネタを挟みながらも、淡々と描かれる室井の物語は、昭和生まれの男の憧れる生き方ではないだろうか。最近は、こうした実直な主人公を据えたストーリーが少ないので、更に際立って見えるのかもしれない。
昔の映画”野生の証明”のキャッチコピーに「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」(元はチャンドラーの探偵小説のセリフ)という名言があったが、まさにそれを絵に描いた古き良き時代のヒーローだ。その映画には高倉健が主役を張っていたが、本作の室井が、その主人公に重なる。
もっと言えば、イーストウッド映画に出てくる退役軍人の爺様だ。とっつきにくいが、タフガイで心底優しい。中でも自分の中で5本指に入る作品「グラン・トリノ」は、本作を気に入った方にはおすすめできる。もっともあちらは軽口を叩くが、室井はとことん寡黙だ。そこが日本人らしいのだが、今はさすがに時代が違うのだろう。
自分も含めて、社会人の引退も近い年齢の方なら、劇中の室井が作りたかった暮らしには共感できるのではないだろうか。実際には単なる田舎暮らしにも、なかなか踏み出せないが、それ故に中高年が憧れる生活を含めて、室井をヒーローたらしめる理由なのだろう。
郷愁と愛着を込めて、室井慎次の生き様にエールを送りたい。
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