「豪華キャスト陣とアクションを“無”にする脚本の凡庸さ」ボーイ・キルズ・ワールド 爆拳壊界流転掌列伝 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
豪華キャスト陣とアクションを“無”にする脚本の凡庸さ
【イントロダクション】
冷酷な独裁者に支配された荒廃した世界を舞台に、口の利けなくなった青年が“復讐者”として立ち上がる。
『死霊のはらわた』(1981)、『スパイダーマン』シリーズ(2002、04、07)のサム・ライミ製作、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)のビル・スカルスガルド主演。監督は、本作が長編監督デビューとなるモーリッツ・モール。脚本に『チャイルドプレイ』(2019)のタイラー・バートン・スミス、その他脚本にアレンド・レメルス。
【ストーリー】
文明が荒廃した終末世界。幼い少年(ボーイ)は、母親と妹のミナ(クイン・コープランド)と共に暮らしていた。兄妹は一緒にアーケードゲームで遊んだり、理想の未来を描いて過ごしていた。
世界はヴァンデルコイ家に支配されており、独裁者であるヒルダ(ファムケ・ヤンセン)は、毎年12人の反乱分子を“選別”と称して公開処刑し、自らの権力を誇示していた。
ボーイ一家はヒルダに選ばれてしまい、ミナと母親はヒルダの銃弾により命を落とす。辛うじて生き延びたボーイだったが、ヒルダによって聾唖(ろうあ)にされ、木に吊るされてしまう。そこを通りかかった名もなきシャーマン(ヤヤン・ルヒアン)によって助け出され、ヴァンデルコイ家に復讐を誓ったボーイは、シャーマンの下で修行に明け暮れる日々を過ごす事になる。
やがて月日は流れ、成長したボーイ(ビル・スカルスガルド)は逞しい戦士になっていた。彼は無くした声をかつてのアーケードゲーム音声で脳内再生し、殺害されたミナの幻覚に悩まされていた。
ある日、買い物の為市場にやって来たボーイは、ヒルダの姉メラニー(ミシェル・ドッカリー)の夫グレン(シャールト・コプリー)と長男のギデオン(ブレット・ゲルマン)が“選別”の対象者を探しにやって来ている所に遭遇する。群衆の中の女性に野次を飛ばされたグレンは女性を射殺してしまい、ヴァンデルコイ家の執行者6月27日(ジェシカ・ローテ)が鎮圧する。
ヴァンデルコイ家の残虐な行いに耐えかねたボーイは、ギデオンの車のトランクに忍び込んで倉庫に侵入。グレンと手下達と戦闘になる。ボーイはそこで捕虜として捕えられていたバショー(アンドリュー・小路)と知り合い、彼とレジスタンスの仲間であるベニー(イザイア・ムスタファ)協力してヒルダが“選別”前に行うパーティー会場に潜入する事を計画する。
【感想】
まるでスーパーファミコンの格闘ゲームをプレイしているかのような感覚を覚える異色のアクション映画だった。ただし、R-15指定作品の為、アクション演出や暴力描写はグロテスクで、時には笑ってしまう程。
本作に登場するアーケードゲームを基にしたビデオゲーム『スーパードラゴンパンチフォース3』がスピンオフとして発売されたり、アニメシリーズが開発中だったりと、そもそもの企画からしてマルチ展開ありきの企画だったのだろう。
肝心の本編はと言うと、アクションシーンこそ気合の入った激しい格闘戦が繰り広げられる。特にラストバトルは、流血表現もふんだんに、痛々しいくらいの死闘が展開され、見応えはある。
しかし、ストーリー展開があまりにも凡庸で、終盤のボーイの記憶を巡った種明かしこそ多少の捻りはあったが、そこに辿り着くまでが退屈に感じられた。
アーケードゲームを意識しているからか、キャラクター設定や描写がとにかく薄く、特に仇となるはずのヴァンデルコイ家の面々が悉く魅力に欠け、ボーイの激しい復讐心にもイマイチ共感出来なかった。
ただし、アーケードゲーム音声を脳内再生して、観客にのみ彼の心情が把握出来るようにされている点や、死んだ妹ミナの幻覚を度々見ているという設定は面白かった。ミナ役のクイン・コープランドの愛らしい演技もあって、彼女との掛け合いが展開されているシーンは楽しく見られた。このミナの幻覚は、その存在理由にまで考えを巡らせると『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015)において度々マックスの窮地を助ける幻覚にも通じている気がする。
ビル・スカルスガルドの演技と、肉体改造ぶりは素晴らしく、本人は叫び声程度しか発さないにも拘らず、しっかりと存在感を放っていたのは良かった。
ヒルダ役のファムケ・ヤンセンをはじめ、ジェシカ・ローテにミシェル・ドッカリー、『ザ・レイド』(2011)でアクション俳優としてブレイクしたインドネシア武術シラットの達人ヤヤン・ルヒアンと、演技派・個性派俳優を数多く起用しており、意外と製作費は掛かってそうな様子。にも拘らず、これだけの俳優を揃えても物語的に凡庸なのは、脚本の重要性を痛感させられる。
【総評】
豪華俳優陣、気合いの入ったアクションシーンは一見の価値はある。しかし、言ってしまえば金も人も「無駄遣い」としか言いようがない凡庸な脚本が、それら全ての足を引っ張ってしまっているのは残念だ。
あまり深く考えず、ポップコーンムービーとして気楽な気持ちで鑑賞するのがベストだろう。
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