「8分目までは秀逸」聖なるイチジクの種 ゆうじんさんの映画レビュー(感想・評価)
8分目までは秀逸
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映画としての評価は、星5を付けたいけど、どうしても1つ減らしてしまう惜しい作品。前半から中盤に掛けての母と娘の気持ちの葛藤はあまりに素晴らしく、息をのんでしまう。特に娘の友達に対する母の気持ちの揺らぎは、非常に臨場感があり、イランで自分を殺して生きている女性の姿を生々しく伝えてくる。特に、娘の友達が大学の暴動に巻き込まれ、顔を負傷する場面の緊迫感は、観客の胸を締め付けてくる。
しかし、この物語の主題である「銃の喪失」の真相に迫る後半はなんだか微妙な展開に。父親も悩める存在として書き出されていた前半に対して、後半はただ理不尽な暴力を家族にふるう悪役に成り下がってしまう。なんだかんだで妻に悩みを告白し、妻もそれを受け入れるという夫婦のきずなが見られた前半とはかなり温度差が出てしまった。銃泥棒の犯人は末娘だったわけだが、その動機もいまいち共感できない。少なくとも前半では、妻が夫に理不尽に抑圧を受けていた様子は感じなかったので…。
陸の孤島のような隔絶された場所での、母娘VS父という構図は、『シャイニング』ばりのスリリングさはあり、エンタメとしてのよさは感じられたが、全体の整合性は外してしまったイメージだった。
とはいえ、日本ではほとんど見えないイランの一般家庭の息苦しさを、スリラーテイストにまとめ上げた類を見ない作品。監督も出演者も文字通り命を懸けた作品として、一見の価値あり。まさに作品完成の過程自体が、一種のスリラーなので、ぜひパンフレットを入手したり、作り手の気持ちに触れてほしい。
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