「体制の崩壊と価値観の転換。その先に何があるのか?」聖なるイチジクの種 ノンタさんの映画レビュー(感想・評価)
体制の崩壊と価値観の転換。その先に何があるのか?
『聖なるイチジクの種』は、国家の抑圧と家族内の権力構造を重ねながら、価値観が揺らぐ瞬間 を映し出した映画だった。
前半は、イスラム神権政治のもとで立ち上がる若者たち。特に女性たちがヒジャブを脱ぎ捨て、自由を求める姿が印象的だった。
後半は、国家の縮図としての家族。家父長制の中で権威を持っていた父が、もはやその役割を果たせなくなっていく様子 が描かれる。
「国家 vs 国民」「父 vs 家族」—— 同じ構造が二重に繰り返され、崩壊へと向かう。
主人公のイマン(父)は、自分の信じていた正義が崩れ、家族にも見放される中で、
「それでも自分は正しかったのだ」と信じ込むしかなくなる。
この心理描写が痛々しく、抑圧する側もまたシステムの犠牲者であることを突きつけられた。
そして女性たちは、古い価値観の束縛から抜け出していく。
この映画は単なる政治批判ではなく、価値観が大きくシフトする時代の変化を映した作品 だったと思う。
「正義とは何か?」「自由とは何か?」
この問いを観客に突きつけながら、映画は静かに、しかし確実に未来への種を蒔いていた。
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