劇場公開日 2025年2月14日

「あちこちに巡らす思いが止まらなくなる作品」聖なるイチジクの種 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0あちこちに巡らす思いが止まらなくなる作品

2025年2月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2023年4月16日に鑑賞した『聖地には蜘蛛が巣を張る』ぶりのイランを舞台にした映画。前作はデンマーク映画、そして本作はドイツ/フランス映画として公開されたが、イラン映画とならないところにイランの抱える問題が見え隠れするのだが、両方とも良質なクライム・サスペンスだ。

2022年9月にヒジャーブ(ヴェール)のかぶり方が不適切だとして、マフサ・アミニさんが逮捕され、拘束中に死亡したことを受けて各地で抗議運動(「女性·命·自由」運動)が起きたことが、本作制作のキッカケだそうだが、デモ抗議の場面で聞こえてくるセリフに(政権打倒ではなく)「神権政治打倒!」というシュプレヒコールを聞きながら、神権政治というものは、神による権威を笠に着て人間による批判を封じるメカニズムなのだなと改めて感じた。

神の名のもとに人々が弾圧され、殺される社会で、人々は疑心暗鬼になり、家族の絆でさえ壊れていく。実際の市民が撮影したのであろうスマホの動画が多用されることで弾圧の様子が生々しく描かれる。

家父長制の権威を守りたい側とそれを切り崩したい側の対立という国家全体の問題を一つの家族の中に集約させることで、より「自分ごと」として捉えやすくなっている。

だから、我々もそれを対岸の火事だとおっとりと構えている訳にはいかない。

かつて存在していた「隣組」という相互監視制度が、現在ではSNSによる相互監視制度(一般市民の〈自発的な〉行動によって)が築かれてはいないか?同調圧力によって為政者の思う方向に流されてはいないか?そもそも家父長制をこの国の伝統だと主張し続けている集団が大きな力を持っているのではないのか?

そして、難民は犯罪者だから祖国に追い返せと声高に叫ぶ人々がSNSの中にもいるが、ここで描かれているような事実があることが想像できているのだろうか?あんな目に遭いながら国に対して従順でいることが強いられていることを是とするのか?そんな国家に異を唱えるだけで犯罪者として扱われることが思いつかないのは、あまりに想像力が欠如していないか?

とにかくあちこちに巡らす思いが止まらなくなる作品だ。

Tofu