「ケーキとドーナツ」時々、私は考える 羊さんの映画レビュー(感想・評価)
ケーキとドーナツ
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フランが住む街はとても静か
勤める職場は日本の中小企業のような雰囲気で
その時点で日本人には合いそうな作品だな、と
映画に国籍や人種は関係ないけれどね
この作品のチラシを読んだときに
なんだこの僕みたいな人はって思った
だから余計に公開されるのが楽しみだった
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フランが空想に耽る死はとても綺麗で
美しい自然と音楽によって彩りがもたらされる
本当にあんな美しい森で死ねたら幸せかも
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退職される方への寄せ書き
たいして話したわけでもない人に
何か書けるわけでもないので無難な一言だけ
ものすっごくわかる…
関わりの濃かった
仲良い人たちでやれば良くない?って思う
自分の寄せ書きなんて邪魔なだけでしょ
みんなでお別れパーティー
フランは輪に入ろうとしないで
楽しそうな皆んなをただ見ている
切り分けられたケーキをそっと持ち帰り
家でくつろぎながらフォークで
ぐっちゃぐちゃにしてるシーンがなんか好き
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ロバートとの出会いは
人生のターニングポイントに
ここからフランは変わって行く
職場にいる楽しい人との
チャットのやりとりって楽しいよね
わかるわかる わかる
ロバートみたいに積極的に
コミュニケーションをはかってくれるひとは
とてもありがたい存在なんだよね
自分から行けないから……
話したいけど話題がない、見つけられない
だからなんて声を掛けたらいいか分からない
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知ろうとしてくれるのは嬉しいけど
テリトリーがすごく厳重だから
そこに踏み込まれると
途端に遠ざけたくなってしまう
だからとても熾烈な言葉を
相手に浴びせてしまうんだよね…
やっと色々話せる人に出会えたのに
自分の一言で傷つけてしまった
もうダメだ終わった、って落ち込む
僕だったらそのままフェードアウトする
だけどフランは違った
ちゃんと「ごめんなさい」と謝って
関係の修復をきちんとしていた
殺風景なコピー室と街の風景に
豊かな緑が茂っていく
二人の関係性とフランの成長と
心の豊かさが表現されているかのよう
エンドロールをぼんやり見つめながら
最初から最後までを頭のなかで振り返って
パーティでもらったケーキを
ぐちゃぐちゃに潰していたフランが
職場のみんなにドーナツの差し入れを
するようにまで人と関われるようになって
ものすごい心の変化に涙……
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「こんな空想好きでしているわけじゃない」
いつもしている死の空想に
フランが泣いたのは、泣けたのは、
きっと心が変わったから
ロバートという太陽の光が
心にすっと差し込んだから
ぼんやりとただひとりで生きていると
生きてても死んでても同じかな…
なんて思ったりする
でももうひとりじゃない
ロバートもいるし、職場の人だっている
ドーナツの空洞の中心に立って
周りのみんなの笑顔を見ることができた
「そういえば最近私死んでないわ」
笑顔でロバートに伝えるフランが
すこし先の未来にいたらいいな
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