「ちょっと今から仕事やめてくる。純然たる 『エイリアン』映画だが、同人誌感が無きにしも非ず。」エイリアン ロムルス たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと今から仕事やめてくる。純然たる 『エイリアン』映画だが、同人誌感が無きにしも非ず。
人体に寄生する地球外生命体“エイリアン“の恐怖を描くSFホラー『エイリアン』シリーズの第7作。
西暦2142年、ジャクソン星採掘植民地で奴隷の様に働かされる女性レインは、“弟“のアンディや仲間たちと共にこの劣悪な環境下からの脱走を試みる。彼らは冷凍ポッドを盗み出そうと宇宙空間に漂う廃船へと忍び込むのだが、そこはウェイランド・ユタニ社の秘密研究施設だった…。
主人公、レイン・キャラダインを演じるのは『パシフィック・リム アップライジング』『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の、名優ケイリー・スピーニー。
植民地からの脱走を試みるメンバーのひとり、ケイ・ハリソンを演じるのは『トランスフォーマー/最後の騎士王』『マダム・ウェブ』のイザベラ・メルセード。
製作はリドリー・スコット。
リドスコ復帰後の『エイリアン』シリーズ(1979-)としては3作目となるが、今回御大はプロデューサーに専念。というのも、リドスコ渾身の「ワシの考えた人類創世記」的珍作、『プロメテウス』(2012)及び『エイリアン:コヴェナント』に観客の誰もついて行けず、特に『コヴェナント』に関しては興行的にも寂しい感じになってしまったから。リドスコ自身は3作目も監督をする気満々だったらしいので、今回の人事はぶっちゃけスタジオから降板を命じられたという事だろう。現実は非情である。
リドスコ御大に変わって監督を務めるのはフェデ・アルバレス。『死霊のはらわた』(2013)、『蜘蛛の巣を払う女』(2018)、そして『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』(2022)の脚本/製作を務めるなど、ホラー/スリラー映画のフランチャイズ請負人としてその手腕を発揮する職人監督であり、また彼自身も『ドント・ブリーズ』(2016)というサイコ・ホラーものの傑作を生み出している。正に現代ホラー界の最重要人物のひとりであると言えよう。
そんなホラーの申し子が作っているだけあり、本作は申し分無しの『エイリアン』に仕上がっている。前半は『1』(1979)、後半は『2』(1986)、クライマックスは『4』(1997)と正伝の要素を余すところなく作品に注ぎ込んだだけでなく、『プロメテウス』以後のリドスコ外伝も無視する事なくちゃんと継承するという『エイリアン』愛の深さを見せた。
フェイスハガー、ゼノモーフ、そしてサイコ・アンドロイドと、シリーズお馴染みのモンスターも登場し、特に中盤から終盤にかけてこれでもかという程の展開の畳みかけで観客を引き付ける。『ドント・ブリーズ』のセルフ・オマージュをぶっ込みながら、純度100%の『エイリアン』映画を作り上げたフェデ監督の職人っぷりに、まずは拍手を送りたい👏
過去作のオマージュに満ちているという点では『コヴェナント』もそうなのだが、そちらからはリドスコの「商売のため仕方なくやってます。やれやれ」感が伝わってくるのに対し、こちらは「うひょー!エイリアン作るの楽すぃー♪」というオタクのウキウキ感に満ちている。好きな事やっているが故のテンションの高さは作品に反映されているが、反面何処となく同人誌のかほりが漂っているというのも事実。「僕の考えた最高の『エイリアン』」の枠から抜け出せているとは言い難く、これなら過去作を観れば事足りるよな…という、少々意地悪な感想が頭を過ってしまった。
前作に比べるとグロさは少々控えめだが、そこは演出面でがっちりカバー。CGではなく、あえて着ぐるみやアニマトロニクスで生み出したというエイリアンのルックもGOOD👍ちゃんと重量を感じます。
ピチピチと活きの良いフェイスハガーちゃんたちも見物だが、なんと言っても今回の目玉は人間×エイリアンのハイブリッド「オフスプリング」。デカァァァァァいッ…というよりはナガァァァァァいッと表現した方が良い異様な見た目は、当然CGか何かで作り上げたのだと思っていたのだが、これなんと生身の人間に特殊メイクを施しただけ。演じているのは元バスケ選手のロバート・ボブロツキーという人物で、その身長は2m31cmッ!デカァァァァァいッ説明不要!!
あのジャイアント馬場より20cm以上もデカいという凄まじさ。世界にはまだまだスゴい奴が沢山いるもんだ…。色々と面白いシーンが沢山あったにも拘らず、最後の最後で全てのインプレッションを掻っ攫っていったオフスプリング。彼を演じたボブロツキーの、今後ますますの活躍を期待したい。
映像面に不満はないが、脚本にはモヤっとするところも多い。まずそもそも、なんでそんな重要な研究施設がウェイランド・ユタニ社の管理下から離れて宇宙をプカプカ漂ってるんだよっ!直に小惑星帯に衝突するからあえてほったらかしてたとか?でもあの船内にある黒汁は会社にとって超重要なんだから、一も二もなく回収すべきだよね。
ウェイランド・ユタニ社製のアンドロイドならマザーを操作出来るというのもご都合主義的。特に今回の場合は超重要施設なのだから、開拓用の旧モデルにまで権限があるというのはどう考えてもおかしい。
奴隷が貨物船盗んで宇宙に飛び立ったというのにひとりの追っ手も掛からないというのは流石に管理がガバガバ過ぎやしないか、とか銃の扱い方をゲームと雑誌で学んだってそんなんあり?とか、考えれば考えるほど気になる点は増えてゆくのだが、まぁでもこれジャンル映画だし。それらのプロットホールを埋めれば映画が面白くなる訳でもなし、気にし過ぎない様にするのがお互いの為かね。
『コヴェナント』の路線を変更し、新たなサーガの始まりを予期させる内容となった本作。興行的にも成功した様なので、当然次回作も作られると思うのだが、どうもフェデ監督は『エイリアンVSプレデター』(2004-2007)の3作目に興味があるらしい…。『プレデター』シリーズ(1987-)も近年再び盛り上がりを見せているし、『AVP3』が観られる日も近いかも?それを観たがっている人がどれだけ居るのかは知らんが…。

