「問いつづける」リッチランド LaStradaさんの映画レビュー(感想・評価)
問いつづける
今から80年近く昔、原爆開発のマンハッタン計画の一端として放射性核物質製造基地としてワシントン州の砂漠に建設された街リッチランドでは長崎に投下された原爆のプルトニウムを製造し、戦後も核化合物製造の道を歩んで来ました。
街の人々は原爆開発に寄与出来た事を誇りに思い、地元の高校の校章は何とキノコ雲であり、フットボールチームの愛称は「Bombers (ボンバーズ:爆撃機)」、ボーリング場は「Atomic Bowl」、通りには「Nuclear(核)street」の名が付けられています。まず、そんな街があり、その名がRichland (豊穣の土地)であると言う事に驚きます。
一方で、核物質製造の過程で生じた廃棄物を無秩序に地中に埋設廃棄して来た為に、広い土地が汚染され立ち入り禁止になっています。また、その土地そのものが元々アメリカ先住民の土地だったのに米軍が勝手に接収してしまったという暗黒史もあります。
そして、街の人々の考えも錯綜しているのです。古くから核施設で働いて来たお年寄りは、原爆が終戦を早めたと確信しており、
「日本から街の名称やシンボルを変更するよう申し入れがあったが、『戦争を始めたお前たちが言う事か』と言ってやった」
と語ります。それはアメリカ人の偽らざる思いなのでしょう。
また、キノコ雲の校章は変えるべきだと言う若い人も、「では、日本への原爆投下は正しかったと思うか」と問われると言葉を濁してしまいます。これもまた偽らざる思いなのでしょう。
それはまた、「核兵器廃絶」を唱える日本の人々が「では、アメリカの核の傘から逃れるのですか」と問われると妙に言葉を濁す事に通じるものだと思います。広島選出の議員である事を表看板にしながら、原爆記念日の挨拶では毎年変わらぬ抽象的な空言を繰り返すだけの首相の顔が思い浮かびました。