「つよつよ脱法チーム、ナチスを叩きのめす(実話ですと……?)」アンジェントルメン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
つよつよ脱法チーム、ナチスを叩きのめす(実話ですと……?)
みんな大好きスパイアクション。ビジュアルからしていかにもガイ・リッチーらしいぶっ飛び映画……え? 実話に基づく??
蓋を開けてみればやっぱりぶっ飛び映画。実話要素かなり少なそう……まあいっか、めちゃくちゃ楽しいから。
冒頭いきなり、ガチムチ男たちが船の上。ナチスに拿捕されるかと思いきや、隙を捉えて相手を皆殺し。彼らはいわばチャーチル直轄の脱法部隊。ヒゲ面イケメン主人公ガス、怪力男ラッセン、凄腕航海士ヘイズに爆破スペシャリストのアルバレス。途中の島で頭脳派キャラのアップルが加わって、負ける気がしない実力行使チームが出来上がる。少年ジャンプかな。
ターゲットの補給船が停泊するスペイン領ギニアのサンタ・イザベル港ではスパイ映画らしい動きが。裏ビジネスを取り仕切りナチス高官と面識を持つヘロン、ハニトラから射撃までこなすマージョリーの二人が、補給船爆破のお膳立てを整える。
いいですねー、この登場人物だけで白ご飯が進みそうな感じ。こんな濃いメンツが暴れる合間でクールなオーラを放っていた、イアン・フレミング役のフレディ・フォックスもよかった。
ヘンリー・カヴィルのお顔が髭で覆われているのはもったいないと最初は思ったが、見慣れてくるとワイルドな役に合っていてなかなかよい。
彼が扮するガスたちのチームは専らフィジカル担当という感じで、本作のスパイ要素はヘロンとマージョリーが担っている。このマージョリーがとにかく魅力的。色仕掛けを武器にするという設定を一目で納得させる美しさ、ルアー大佐との会話で見せる知性と度胸、射撃の時の身のこなし。パーティーで「マック・ザ・ナイフ」をセクシーに歌い踊る場面では、そのルックスと歌声に魅了された。
歌の一部をイディッシュ語で歌ってしまってユダヤ人だとバレる、というくだりは賢い彼女らしくない隙だったものの、フィジカルチームが強すぎてハラハラするシーンがなかったのでまあよしとする。
(イディッシュ語はユダヤ人が話すドイツ語の方言で、標準ドイツ語に近い言葉)
クライマックスは、補給船の中でのナチス兵士たちとの戦闘だ。ラッセンをはじめ、他のメンバーもとにかく強い強い。ナチスのモブがかわいそうになるくらい強い。ルアー大佐が別の場所にいたせいか、悪の親玉との対決感がなく、一方的な虐殺を眺めているようなちょっとだけ複雑な気分になった。いやいや、これはナチスという巨悪との戦いですぞ。
モデルになった「ポストマスター作戦」は、Uボートの補給を断つオペレーションではあるが、実際は補給船を爆破する予定はなく、当初から積まれた物資を奪取する計画だったようだ。アップルがナチスに捉えられていた、補給船曳航時に銃撃戦になった、というのもフィクション。ルアー大佐が変態だったのもフィクションだろう、多分。
一方、英国政府内で外務省や陸軍部隊の協力が得られない中、海軍省によるコルベット艦派遣といったバックアップはあったものの、作戦がごく少人数で実行されたことは事実。SOEのメンバーがあらかじめスパイとして現地に入り、作戦の日にパーティーを開いたのも実話だ。
邦題を見た時は、監督の過去作「ジェントルメン」に寄せた安直なネーミングかなと思ってしまったが、原題「THE MINISTRY OF UNGENTLEMANLY WARFARE」はチャーチルが本作戦のチームにつけた呼称であり、一応史実ルーツのタイトル(邦題はその切り取り&アレンジではあるが)なのだ。
Uボートの活動を封じるという目覚ましい功績を挙げたこの極秘ミッションだが、リアリティ重視で映画化すれば地味で重い作風になりそうなものだ。そこへドンパチ爆発、美しき女スパイと敵ボスの攻防などエンタメ要素をてんこ盛りに盛って、ガイ・リッチー節の効いたスカッと活劇に仕上げた監督のセンスや良し。
影の英雄だった彼らの功績を広く知らしめて讃えるには、これくらいカジュアルでカッコいい味付けにするのも全然アリ。