劇場公開日 2024年9月6日

「全てがマイルドで惜しい」夏目アラタの結婚 たいやきさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0全てがマイルドで惜しい

2024年9月21日
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鑑賞方法:映画館

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連続バラバラ殺人の容疑で逮捕された死刑囚である女・品川真珠(黒島結菜)と、被害者遺族の少年が児童相談所の担当職員である夏目アラタ(柳楽優弥)の名前を無断で使用し文通していた
ある日、真珠から「一度お会いできませんか」という手紙を受け取った少年は、まだ見つかっていない父親の首の遺棄された場所を知る大きな手がかりになるかもしれない と、アラタに相談を持ちかける
アラタはそれを了承し真珠との面会に臨むが…

という所からこの物語は始まります

正直原作の独特の空気感を出せていない、見やすいように皆マイルドなキャラクターになっているなぁと感じました
最後はサイコスリラーやサスペンス要素を一気に大団円ルートに持っていく為か突然雰囲気が変わってしまい
終わったあとは何か…ちょっと気を衒ったラブストーリーだったな…みたいな印象になってしまった

若い層や万人ウケを狙うならばこれで良かったのかもしれないけど、元々が少しニッチな層にウケる設定・雰囲気の作品な為、個人的には少しがっかりしてしまいました
狙える層が狭いかもしれないけど独特の攻めた雰囲気の作品から、綺麗にまとめたけど器用貧乏な代わりに万人から嫌われにくい作品になったなと

また、せっかくの柳楽優弥くんの演技を〝わかりやすさ〟のために潰してしまっている気がしました
彼は沈黙や静の演技もとてもお上手だと思うので、アラタにあえて話させない事でも表現させてあげて欲しかった
説明口調の頭の中の台詞が多過ぎて、これでは演技の必要がどんどん無くなってしまう
また、原作のアラタの基本的に根はいい奴だけど少しチンピラ感のある粗野な感じこそが今の柳楽くんには合うと感じていたので
アクの減った劇場版のアラタでは、柳楽くんであるメリットを減らしてしまっていました

真珠のキャラクター性も同じく、不気味で気持ち悪い女なのに、どこに魅力を感じるのか…いつの間にか操られそうな、気を抜けば(死刑囚なんだから塀から出られるはずがないのに)隣に立って居て突然刺されるのではないか?どこまでも底が知れない、掴み所が無いのに突き抜けている
気持ち悪いし怖いのにどこかエロティックで、こちらが勝手に少女性を感じたり
それらの印象さえもすべてが真珠の思惑通りなのか?と感じさせる
そんな独特の気持ち悪さと魅力が、何だか結局は普通の健気で可愛い女の子…にされてしまっていた

そして友情出演の佐藤二郎さんが出て来た瞬間から、彼の怪演に持っていかれ過ぎです…
佐藤二郎さんほどの方をあくまで脇役にも関わらずある程度自由にやらせるのであれば、メインのキャストにはもっと自由に、思い切りやらせなければバランスが崩れてしまいます

2時間という時間で書ききれないほどの内容だったかもしれないというのはありますが、それでも
欲しい演出や表現が足りないせいで、それぞれの人物のキャラクター性や話の内容、感情の機微が薄過ぎる印象になっている
人物の考え方や背景の描写が薄いあまりに突破なだけの行動をしているようになる時がある
また、その突飛な行動も不気味さを演出したり、筋のあるおかしな奴特有のもの…という訳ではなく、ただのご都合主義設定になってしまっている

全てが薄まってしまった上でラストの突然のラブストーリー展開、これが更にこの作品をチープに感じさせてしまっていると感じます
伏線の回収も原作では真珠側でそんなに大きな要素となっていなかった〝匂い〟で雑に纏めてしまった
原作から改変されている部分や内容も、とりあえず綺麗にまとめる為に丁度いいからしただけ感がありました

(原作を知っていたり柳楽優弥くんの演技を楽しみにしていたからというのも大きいですが)全体的に全てが少しずつ惜しい作品になってしまっていました
ただ、原作を見ずにこの映画だけを見れば
それなりに綺麗にまとまっていますし、若いカップルなどが一緒に見るのであれば良い雰囲気の作品ではないかなと思います!

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たいやき