「それでもボクは愛してる」夏目アラタの結婚 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
それでもボクは愛してる
てっきり弁護士が獄中の死刑囚と結婚する話と思ってた。つまり、それくらいの関心。
後はコミック原作、監督は堤幸彦、柳楽優弥と黒島結菜が出てるって程度。
事前情報や詳細もほとんど知らず、漠然とこのセンセーショナルな題材だけ。堤印のサスペンスみたいだし、一応見ておくか。
こういうのが意外や面白かったりする。本作も然り!
3人の男性が犠牲になった凄惨なバラバラ殺人事件。犯人は名字と太ったピエロ姿をしていた事から、“品川ピエロ”と呼ばれる事に。
児童相談所職員の夏目アラタは、被害者の子供からある依頼を受ける。遺体はいずれも身体の一部が無くなっており、頭部を見つける為に犯人に会って欲しい、と。
初面会。そこに現れたのは太ったピエロからかけ離れた華奢な若い女だった。名は、品川真珠。
本当にコイツが連続殺人鬼…?
しかし真珠は会うなり、「思ってた人と違う」と拒否。
咄嗟にアラタは、「俺と結婚しようぜ!」と言った事から…。
弁護士じゃなく、児童相談所職員。
本気のプロポーズじゃなく、引き留める為の手段。
こっちは依頼である目的の為に。
しかし相手は気持ちをぶつけてくる。
本気なのか、弄ぼうとしているのか。
その手に乗るか。聞き出してやる。
駆け引き。
手続きも済ませ、結婚は本当。が、本気で惚れる訳がない。
…と、思っていた。
真珠の予測不可能の言動。
言ってる事もころころ変わる。
驚きの発言。「ボク、誰も殺してない」
性格もどれが本当か。子供みたいなあどけなさ、女性らしいしおらしさを見せたかと思いきや、暴言や挑発的な態度も。
ニタッと笑うと歪んだ歯並び。底知れぬ気味の悪さ。
なのに何か、人を惹き付けるものがある。
それでなくとも事件や人物像にはまだまだ謎が。
殺されたのは3人。が、現場には別のもう一人と思われる血痕が…。
暗い生い立ち。父親は不明、母親と二人。
幼少時はぽっちゃりで今と別人のよう。
虫歯になっても歯医者に連れて行かれず、母親から虐待を受けていた…?
幼少時のIQは70と、同年代の子供と比べると低い。それ故学校ではいじめられ…。
しかし今のIQは100以上で、平均並み。
いや平均どころか、時折人の心や中身を見透かすような言動も…。
幼少時はIQ低かったのに、今は頭がキレる。そもそも10年やそこらでIQが30以上も上がる事があるのか…?
本当は犯人じゃない。別人説まで浮上。が、獄中で刷り変わる事など…。
本当にコイツ、何者なんだ…?
公判が始まり、真珠の証言はまたしても世間を翻弄させる。
同時に少しずつ明かされていく真珠の過去。
その間も真珠の視線は、アラタを見据えている。
真珠、お前は俺に何を求めているんだ…?
今年は『誰も知らない』でカンヌ史上最年少男優賞から20年。天才子役は現在の日本映画を背負って立つクセ者実力派になった。
柳楽優弥の巧さ。普通の真面目な児童相談所職員ではなく、元ヤンキーという設定がミソ。チョイ悪な性格、心の声(ナレーション)も含め、ユニークな役作り。
勿論堂々対しているものの、さすがの柳楽クンも今回ばかりは食われた。
個人的に黒島結菜って、あんまり印象無かった。『カツベン!』のヒロインくらい。朝ドラでもヒロイン務めたらしいが…。
イメージは清純派。可愛いし。
それが、どうだ! イメージからかけ離れ、覆す、この超絶存在感!
可愛らしさや魅力もあり。それと同時に滲ませる、不気味さ、薄気味悪さ、異常さ。何処かピュアさや哀しさ、儚さも…。
公判でのファッションはある意味黒島結菜のコスプレショー。
もうとにかく、彼女が出てくる度に惹き付けられる。魅せられる。
よくぞこの難役をやりきった。圧倒的怪演は拍手喝采モノ!
センセーショナルな題材だけに、キャスティングも個性的。
弁護士役の中川大志は好助演も光る。
“裁判マニア”の佐藤二朗はらしさ全開だが、ちょっと浮いてたかな…。
当たり外れ激しい堤幸彦だが、今回は当たり。
エンタメ、トリッキーなサスペンス、ミステリーとしての面白さ。
見せ方も凝り(照明を落とし、印象的なガラス越しの面会)、所々ユーモアも滲ませる。
二転三転の法廷劇でもある。
ボクは誰も殺してない。犯人は、ストーカーのように付きまとっていた実父。その実父が3人を殺し、その手伝いをさせられた。本当の事を言ってるような、嘘を言ってるような…。
検察がそれを崩すも、新たな証拠で発覚した真珠の現年齢。
それが事実だった場合、死刑は求刑出来ない。立証され、公判は棄却。ならば今真珠を拘束している法的根拠は…? 司法の盲点も付く。
難点も無い訳ではない。さすがにリアリティーに欠ける点や強引なご都合主義もある。被害者の内一人の殺害動機は分かるが、他の3人の殺害動機は…? ちょっとピンと来なかった。
それでも上々。エンタメ・ミステリー、裁判劇、司法への問い掛け…。
この路線で終着するのかと思ったら、意外な方向へ。
単なる見世物じゃなく、ちゃんと獄中結婚した二人の“ラブストーリー”であった。
一時二人で逃避行。
アラタが寝てる間に居なくなった真珠は再逮捕され、やり直し裁判。
居なくなる前に真珠はアラタにある事を託す。
見つけ出し、真珠の衝撃の真実。壮絶な過去。
母親が歯医者に行かせなかった理由、幼少時IQが低かった理由、急にIQが上がった理由にも繋がる。
先日見た『市子』を彷彿させた。殺人を犯したが、壮絶な人生に翻弄され、誰もが市子の幸せを願った。
なら、真珠だって…。実は一人の女性の哀しいドラマ。
そんな彼女が何より求めたのは…
自分を見、こんなボクでも愛してくれる人。
真珠の想いは本物だった。真っ直ぐアラタを見つめていた。
しかし、アラタはずっと…。憐れんでいた。
自分の愚かさに気付いた時…。
死刑囚と結婚…? 言いたい事あるなら、言え。真珠を幸せにしてやれるのは俺だけだ。
にしても、何故真珠はアラタを…?
EDで明かされる“出会い”。
あの時から。真珠の匂いを嗅ぐ行動も異常さかと思ったら、探していた。確かめていた。見つけたのだ。やっと。
究極なまでのラブストーリーであった。