劇場公開日 2024年9月6日

「予告編からは想像できなかった奇跡の作品」夏目アラタの結婚 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0予告編からは想像できなかった奇跡の作品

2024年9月7日
PCから投稿

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「死刑囚と結婚」という設定に加え、予告編映像もかなりインパクトがあった。一方で、リアリティーに疑問符が付くので、「どうなのかなあ・・」と思いつつも、柳楽優弥と黒島結菜はいずれも割と好きな役者なので、「まあ、観てみよう」とあまり期待を持たずに観賞。

【物語】
児童相談所職員・夏目アラタ(柳楽優弥)は、世間を騒がせた連続殺人事件の遺族から相談を受ける。 事件の犠牲者の男の息子である小学生の少年が、一審で死刑判決を受けて控訴中の容疑者品川真珠(黒島結菜)と文通していたと言うのだ。 文通の目的は殺された父親の首が見つかっていないため、その隠し場所の情報を得るためだったが、被害者の息子であることを隠すためにアラタの名前を騙って手紙を出し続け、しかも最後の返信には「アラタに会いたい」と書かれていたため相談されたのだった。

アラタは当惑したが、少年に「お父さんの首の在りかは俺が突き止める」と約束して、拘置所を訪れる。いよいよ面会に臨むが、現れた真珠に驚く。報道されていた品川真珠は醜く太った容姿であり、世間では逮捕時の異様な化粧から「品川ピエロ」と呼ばれていた。しかし、目の前の真珠は美少女だった。不揃いの歯を除けば。一方、真珠もアラタを前に、「思ってたのと違う」とだけ言い捨てて面会室から出て行こうとする。少年との約束を果たせなくなると焦ったアラタは、咄嗟に獄中結婚を持ち掛ける。

数日後真珠の弁護士宮前(中川大志)がアラタの前に現れ、真珠の記入・捺印が済んでいる婚姻届けを見せる。咄嗟の思いつきで言ったことでもちろん本気ではなかったアラタだが、後に退けなくなる。 アラタは拘置所に通いながら宮前と共に事件の真実、真珠の本心を知ろうとする。

【感想】
これは、想像していたよりずっと面白かった。

まず、観賞前の不安要素“死刑囚と結婚”について、「こんなのあるわけないだろ!」にならなかったことが大きい(ちなみに真珠は一審で死刑判決を受けたが、控訴中で刑が確定していなかったので正確には“死刑囚”じゃないですよね?)。 実際には主人公アラタの置かれた立場に立ってもまず誰も結婚はしないとは思うものの、「この展開なら、もしかしたらあるかも」と思わせる。SFの設定と同じで、現実にはあり得なくても「もしかしたら・・・」と少しでも思えることは俺的にはとても重要。

次に柳楽の演技が良かった。上述とも絡むのだけど「こいつだったら、結婚するかも」と思わせるアラタのキャラを作り上げている。俺が柳楽に惹かれるのはこういう演技力だが、ナイス・キャスティング!

ヒロイン黒島結菜も頑張っていたと思う。“醜い歯”が作品のビジュアル・インパクト的にもストーリー上でも重要なので絶対省けない部分だが、結果としてはヒロインとしては今ひとつ可愛くないのだが、まあ仕方ない。事務所的には出演することを躊躇する面もあったかと思われるが、作品の仕上がりを見れば女優キャリア的にも出演して良かったと思う。

さらに何より褒めたいのは、本作が純愛に仕上がっていること。
この基本設定で、純愛作品にするのは奇跡とも思える。中盤まではおどろおどろしい事件描写、異様な真珠のキャラ、ミステリー的展開で引っ張りつつ、最後にああ仕上げるのは、脚本・演出・役者の演技、さらには編集も加えた力で絶妙のバランス保った結果だと思う。

現実には絶対あり得ないのだけど、「もしかしたら・・・」を思わせる奇跡のラブ・ファンタジー。俺が観た堤幸彦作品の中では最高傑作と思える。

泣き虫オヤジ