劇場公開日 2024年9月6日

「理解者を得るという一つの救済」夏目アラタの結婚 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0理解者を得るという一つの救済

2024年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

少年の願いを叶えるため、死刑囚・品川真珠と縁が切れないよう獄中結婚をした児童相談員アラタが、目的のために手掛かりを求めて図らずも奔走するうち、真珠と奇妙な交流を深めていく物語。

囚われの身の事件関係者が提供するヒントをもとに主人公が事件の真相を追うミステリーやサスペンス映画は数多くあるが、本作の主題は本編が進むにつれて謎解きからアラタと真珠の交流に比重が移っていく。
それもそのはず原作コミックは決して短くはない分量であり、謎解きのメインストーリーと、真珠や事件に関わる多くの人物の群像劇的なサブストーリーとで構成された物語で、とても120分では収まらない。更に原作は、真珠やアラタの母子関係を通して成育歴が子供の恋愛観や家庭観に及ぼすものや、重犯罪者に対する被害者や外野の視線についても言及した社会派の一面も持った作品であるため、一つ一つの要素がヘビーで全てを回収するのは難しかったのだろう。

予告やイントロダクションから本作をミステリーやサスペンスだと思って鑑賞した自分はアテが外れて一度は落胆したが、映画本編を真珠の動きをメインに振り返ってみて評価を改めた。母の言いつけを守った結果、人との関わり方が学べず失敗体験の積み重ねで委縮し、奇妙な外面で自分を守ってきた真珠が、様々な腹の探り合いや試し行為を経てアラタにようやく希望を見出したのだと思うと、ファンタジックな終盤も感慨深かった。
真珠とアラタの交流に着目してもう一度観たくなったし、原作からカットされたエピソードをスピンオフで観たいとも思った。

また主題が謎解きから外れていくあたりで本編の空気がダレそうになるところを、ベテランの演技で引き締めたりコメディの間で緩めたりして緩急をつけ、テンポの良いカット割りも駆使して観客の注意を逸らさせない構成が巧みだった。

原作の完結は2024年1月だそうで、連載中に映画の制作が決まったのだろう。原作を圧縮・要約しテーマを絞る必要がある中で、キャッチーなミステリー部分ではなく、アラタと真珠がアクリル板越しに築く絆の方を選んだ理由など、企画が固まるまでの舞台裏を知りたくなった。

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うぐいす