「三人が素晴らしい」ボストン1947 Ericさんの映画レビュー(感想・評価)
三人が素晴らしい
冒頭のベルリン五輪での二人の姿は嘘ではない。上がる日本国旗を見ようとしない記録映像が残されている。本名さえ名乗れなかったソン・ギジョンとナム・スンニョンがソ・ユンボクの素質を前に第二のソン・ギジョンにしようとする。本当に三人それぞれの性格がはっきりと分かる。世も名声も捨て投げやり的なソン、友情も若者達も妻も大切にするいかにもいい人!のナム、若い感情をストレートに、気持ちが良いほど出すソ。
・良かったところ。
この三人の繋がり。ナムから何となく渋々監督にされたようなソンが段々と熱くなっていく。というより日本国旗を胸につけ五輪を走った無念さを心に秘めていたのに、そこにふっと火がついて思いを外に出さざるを得なくなったように見えた。ナムが本当にいい。ある時はソンを、ある時はソを包む懐が暖かい。シーンとしては短かったが山の中の道を二人して走った時は鳥肌が立った。そしてソ。雰囲気から真っ直ぐな瞳から意地っ張りなところから何より本番での走りについてはとても書き尽くせそうにない。
ソンが星条旗ではなく太極旗を胸に走ることを望む姿勢にやはり熱くなった。この国の建国は翌1948年であり主催者側は間違っていない。でもそれをソンの思いが超える。かつて否定された自分達。国ではなく存在を認めるよう訴える声に、私に韓国語が分かったらもっと伝わってくるのに!と悔しかった。
そしてソの勝利を喜ぶ人達。ボストンから遠く離れた故郷、いくつかの場所でラジオの周りにできていた人の歓声。アメリカ兵もいて嬉しい。表彰式に流れる曲は「蛍の光」。実際に使われていた時期があったので史実かもしれない。現在の国歌は1948年から。
・あれ…と思ったところ。
実はそれが何かはっきりしない。でも観ている時「違う、そこじゃない!」と思っていた。ナムが何人もの若者達を鍛えるシーンがある。「そうじゃなくて三人を観たい!」と感じたことは確かだが韓国は1950年のボストンマラソンの表彰台を独占するのだから、ソ以外の人材も育てていたと表す必要な要素。でもなぜかじりじりしていた。
その一方で「展開速い、もっとゆっくり観せて!」と感じたのも事実だ。
私が観たかったもの。日本の占領から解放され喜びが来たと全身で感じた人達が前にしたのは祖国の分断、別の者の統治、恐らく貧困。その中で生きようとする姿。
次々に起こる難関にソンとナムが、時にソも加えてじっくりと、すぐ答は出なくても、言葉少なくても語り合う姿。
これらも入れるのは尺で無理かな。
足を運べる映画館も少なく、映画の選り好みがかなりあると分かっている私が言うのもおこがましいが、私が洋画をあまり観ないのは字幕に頼らざるを得なくて、するとどうしても意味を割愛しなければならないからで。そして邦画を観るのは「間」があるからだ。何も言わないで瞳だけで語る時間。それが好きだ。
観ていて息ができなくなる山場はマラソンのシーンだと分かっている。その前にこちらが心の準備をする「間」が欲しかった。それが弱かった。どんどんストーリーが進んでいってしまった。そこが残念だった。