「河合隼雄の臨床心理療法の事例集に掲載されているような話。」ナミビアの砂漠 はるさんの映画レビュー(感想・評価)
河合隼雄の臨床心理療法の事例集に掲載されているような話。
人は男も女も15歳を過ぎると楽しいことはほとんどなくなってしまう。自分の周りの人たちがでくの坊のように思えるし愚かな振る舞いだけが目に飛び込んでくる。深海に暮らす貝のような気分で過ごす日々が続くのだ。自我に目覚める時なのだ。狂ってしまうのではないかと不安に苛まれたりもするし、むやみに人を傷つけたくなったり、自分を傷だらけにしてしまう者もいる。暴力を振るっている時が心が落ち着いていたりする。人間は複雑な生き物だということだ。そしてやがて自己を確立するための長い道のりを歩き始める。そしてすべては自分自身の中に折り重なる意識と無意識の戦いの最中で大切なものを見つけたり学んだりしながら死んでいく。
この映画はけっこう危うい映画だと思う。一歩間違えば人殺しと呼ばれてしまうし自死を選ぶかもしれない人の話だと感じた。いくつものシーンで叫びたくなるほどの恐怖を感じた。他人の愚かさや世の中の理不尽さが自分自身のなかにも数え切れないほど存在していることに気づくとき、その瞬間を自分の手でしっかりと握りしめることができるかできないかが勝負なんだと思えた。
人はどこまで愚かになれるのかを知ることが最も大切なことのなのだろう。
そうすれば人の優しさを知り、そして人に優しくできるのだ。
しかしそれはそんなに容易なことではない。
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