「山中監督、チェックインです。」ナミビアの砂漠 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
山中監督、チェックインです。
私は今回も事前にトレーラーすら観ることなく劇場へ。少々気にしていたのは山中瑶子監督の過去作品を全く観られていなかったことですが、カンヌでの評価に期待して参戦です。平日午前中の回ですが会員サービスデイということもあり、TOHOシネマズ日本橋のスクリーン4はほどほどの客入りです。
始まり、遠目のカメラが徐々に寄っていき、ようやく主人公らしき女性を捉える。そして、徐にバックから日焼け止めクリーム取り出すカナ(河合)、それを塗りながら危なっかしく階段を下りていく一連の流れ。やはり一癖ありそうです。からの、サクッと切り替わって次のシーン、友人イチカ(新谷ゆづみ)の待つ喫茶店へ。思いのほか周辺のお客たちの声も大きめでイチカの声と重なって聞きづらい、と思っていたらそれもまたギミック。その後もカナの捉えどころのないキャラクター性や謎めいた人間関係がようやく見え始め、なるほどそういう感じかと思って観ていると、そのタイミングで?といきなりタイトルがドーン。ああ、ここまでアバンタイトルだったのね。と言うことで、こう書くと「奇をてらっている」と印象を与えてしまうかもしれませんが、物語が進んでカナを知っていくちゃんとそれらの演出に「意図」が感じられ、しっかり山中監督の強い作家性といろいろ出来る手練れ感、侮れません。
とは言え、作品として万人ウケする内容か?と問われれば、それは否かなというのが正直な印象です。「河合優実主演」、「カンヌ受賞作品」という話題性に釣られると面喰う方もいらっしゃると思いますし、特に、中盤以降の展開については観る人によっては「影響を受ける」可能性があるためちょっと注意が必要かもしれません。
で、私個人としては嫌いじゃありません。「カナペース」で始まった序盤から、不意に見つける「あるもの」をきっかけに徐々に狂いだすペース。そこから少しずつ見え始める「カナの本質」にヤバ味を感じ、いよいよ歯車が狂えば最早ホラー。また、そんな緊張感とは裏腹にちょいちょい感じる言動の可笑しみ、特に不意にでるワンフレーズの言葉選びが若者っぽくて面白いと思います。
また、キャスティングがメインからサブまで絶妙。中でも印象的なのはカナの隣人遠山ひかり役の唐田えりかさんですね。終盤にかけて不安定さを増していくカナに対するひかりは、唐田さん本人の過去を知るからこそ、ついつい彼女の台詞に説得力を感じさせますし、また佇まいからして堂に入っています。素敵でした。
と言うことで、今回自分が山中監督をよく知らなかったことから、周辺にまで視野を広げて気づいたのが、キャスティング、制作と配給など、プロデューサー小西啓介さん等とハピネットファントム・スタジオの意気込みが感じられた一作だと言うこと。尖っていてとてもチャレンジングを感じました。堪能です。