「若者の生態観察映画だけど、無防備すぎて、危うさを感じてしまいますね」ナミビアの砂漠 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
若者の生態観察映画だけど、無防備すぎて、危うさを感じてしまいますね
2024.9.9 京都シネマ
2024年の日本映画(137分、PG12)
二股をかけていた女子が精神的に崩れていく様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は山中瑤子
物語の舞台は、都内某所
脱毛エステサロンに勤めているカナ(河合優実)は、不動産屋で働いている彼氏・ホンダ(寛一郎)と同棲しながら、クリエイターのハヤシ(金子大地)と密会を繰り返していた
彼女には特別な友人はおらず、そう言った関係を煩わしく思っていて、近寄ってくる友人たちをホストクラブに誘導しては沈めていた
その日もうざったい友人イチカ(新谷ゆづみ)と会うことになったが、彼女の話は無駄に長く面白くもなく、他の客席の話題に耳を傾けるほどだった
ある日、ホンダが北海道に出張にいくことになり、カナは「ススキノに行くんでしょう?」と意地悪を言ってしまう
ホンダは「誓っても行かない。無理やり連れていかれそうになったら会社を辞める」とまで言い切った
だが、帰ってきて早々に「拒めなかった」と謝罪し、カナはその日のうちに彼の家を出ていくことになった
その後、カナはハヤシと同棲を始めるものの、クリエイターのハヤシは在宅にて勤務をすることが多かった
構ってアピールをしても無視され、それが原因で喧嘩になることが増えてしまう
そうこうしているうちに職場でも余計なことを言ったために解雇されてしまい、ますます精神的に落ち着かなくなってしまうのである
映画は、カナがライブ動画をぼおーと見ている様子が映し出され、部屋にいる時のズボラな格好であるとか、ぐだぐだな日常を眺めるような感じに仕上がっている
まるで、こちら側が「砂漠にいるカナのライブ中継を見ている」ようなテイストになっていて、それはカナがスマホを覗き込んでいるのと同じような構造になっていた
印象的だったのは、「水」にまつわるエピソードで、ホンダは事あるごとに「水を飲んで」と言って渡し、ハヤシは「水を取って」と言っても「それぐらい自分でできるでしょ」と返してしまう
自由度が「水」によって表現されていて、ナミブ砂漠のオリックスは自分が飲みたい時に飲んでいたりする
カナはある意味でオリックスの自由さに憧れているのだが、それを自分で変えようともしないし、ただ惰性でどうなるかに身を委ねているようにも思える
怪我を機に全く働かなくなるのだが、それでもハヤシは彼女を追い出したりはしない
その理由については明かされないが、まあ察してくださいまし、と言ったところなのかなと感じた
ハヤシ自身も家族はおそらくインテリで、望まぬ将来を迎えていると思われている
また、大学時代の友人・三重野(伊島空)が語る危ないエピソードも、実はハヤシの事なのかなと思った
そう言った事件を起こしたこともあり、有名な大学を出ても泣かず飛ばずで、実家の圧をずっと受けていて、それゆえに帰る場所がなく、自分を必要としてくれるカナのところにいるのかなとも思う
ある意味、ハヤシはカナにとっての砂漠の水飲み場のようなもので、それを許容できるから一緒にいるのかな、と感じた
いずれにせよ、かなり長回しのシーンが多く、本当に生態観察をしている作品になっている
今どきの若者という主語を使うのは心苦しいが、若者はいつの時代もあんな感じなのだと思う
それは、手段さえ問わなければ水場が近くにあるという環境で、それを手放さないために遠出や冒険はしないということなのだろう
それが良いのかはわからないが、そう言った価値観でも生きていける時代にあるというのは今の日本であり、それが危機感の欠如にもつながっているように思える
本作は、そう言ったことへの警鐘の意味はほとんどないのだが、同じに見られたくない若者は行動を変えて、せめて自分の飲み水ぐらいは自分で探し出すのかな、と思った