劇場公開日 2024年9月6日

「近年の日本映画で最高の成果のひとつ。」ナミビアの砂漠 milouさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0近年の日本映画で最高の成果のひとつ。

2024年9月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これはまあとにかく俳優の動かし方と編集とサウンドスフィアがあざやかにリズムを作りだしていて、それが物語内容から独立した独自の文体を生んでいる。すばらしい才能で、近年あれこれ現れた日本の若手監督を、まったくかすませてしまった名篇。濱口竜介に匹敵する作り手が、こんなにあっさり登場したのは驚きです。

物語自体は、この10年で無数につくられた「東京の片隅に生きる孤独な若い女が人生に衝突する話」を臆面なく踏襲していて、だからこれを見るときは、律儀に物語を追ってはいけないのです。カメラの動き、俳優の視線、そこへフレーム外からしのびこませる音環境の構築、そして何よりもショットからショットへの新しい切りかえの感覚に、注目してください。

主演の河合優美も、たいへん見事。もともと今の日本語は、とくに若い人の間では口先でぼそぼそっと勢いなく話す発声で、そのままでは映画にもドラマにもなりづらい。それを逆手にとって、しっかりとリアリティを与えていることにひどく感心した。

もっとも男優たちは正直大したことがないので、濱口竜介監督のような独自の演技指導メソッドがあったわけではなく、監督と女優のケミストリーによるものかもしれない。

そして終盤にいたって物語を回収しはじめると、やや脚本の弱さが表れてしまう。「登場人物が狂気におちいる」って要するに夢オチの別形態だからね、うまく着地させるのは至難の業なのです。それでも同種の物語上の特徴をもった凡百の作品にくらべて、脚本上のキズをはるかに巧くカバーしているとは言えるかもしれない。カンヌでもここは審査員の間で議論になったはずだけど、やはり作品全体を支配する清新さ・巧みさを見逃すわけにはいかないと結論づけたのだと思う。そしてそれは炯眼だった。

この作品は、「映画が国外で高く評価されるには2つの特徴を持っていなければならない」という教訓にもなっている。つまり「他の誰にも似ていない」と「作り手が生きる地域・社会の現実にしっかり根を張って思考している」のふたつ。日本で映画と映像に仕事でかかわるすべての人はここをよくよく見てほしい。

いずれにしても、これは濱口・三宅の二人と並んで、ここ5年くらいで作られたすべての日本映画の中で最大の成果のひとつであることには疑いありません。ぜひ劇場で目撃して、その成功によってこの監督に次回作を作らせてあげてください。

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milou