「乾いた砂漠を生きるのに水の補給は不可欠だ」ナミビアの砂漠 P007さんの映画レビュー(感想・評価)
乾いた砂漠を生きるのに水の補給は不可欠だ
東京・町田在住21歳、脱毛エステ店員、二人の恋人、(女性から男性への)DV、双極性障害の主人公カナ(河合優実)。母親は中国出身。遠い実家には帰れない。
正方形に近いスタンダードサイズの狭い画面が、情報量を削ぎ落とし鑑賞者の視線をカナに集中させる。冒頭のズームアップ。その後も、意図的なズームアップが何度かあり、カナの心情を訴える。
『映画なんか観て何になるんだよ』、と問いかけられる。鋭利なセリフが幾度と発せられ、相手を突き刺す。その中でも特に『-、死刑じゃん!!!死ね!!!』は強烈だ。さらに、『日本は少子化と貧困で終わるので、今後の目標は生存です』、こんなセリフ少し前なら悪い冗談に聞こえるが、現実感が漂う。カナが生まれた2003年は出生数112万人、2024年は予想69万人。隣人(唐田えりか)のセリフ『どうせ子供も産まないし』の通りだ。
カナ(河合優実)がトイレで排泄している最中に、ハヤシ(金子大地)が上から跨り排泄をする。恋人二人の幸せの絶頂が、排泄で描かれる名シーンになっている。
延々と通っても効果がないエステ脱毛を痛烈に批判する。これは監督の実体験だそうだ。
カナは冷酷だ。ハヤシには、孕ませたくせに中絶させたと異常な怒りをぶつける一方で、ホンダには中絶したと嘘をつき追い払う。
最後のシーン、画面の中央にあるブルドックソースとトマトケチャップは何を示唆するのか。元彼ホンダが作ってくれた冷凍ハンバーグを食べる二人。ティンプトン、ティンプトン。そして、部屋の配置が左右に全部入れ替わってる!?(これは勘違いかなと思ったら、bunkamura.co.jpの記事で意図的にした旨が言及されてました。)
序盤の会話「ノーパンしゃぶしゃぶ」は、"何もないナミブ砂漠"、"人工的な水飲み場"、"集う野生の動物"の隠喩だろうか。
アイリスオーヤマの2L水が何度も登場する。乾いた砂漠を生きるのに水の補給は不可欠だ。ネット通販で最安値の水だから私もよく飲む(笑)。
山中監督の才能と河合優実の演技力が炸裂した最高傑作。
映画パンフレット(1,000円)に、批評家3人の長文レビューが載っている。難解なこの映画の理解を助けてくれる。
共感ありがとうございました。
レビューされている3作品がどれもツボで、フォローさせていただきました。
これからもレビュー楽しみにしてます。
(パンフレット、買えばよかったとちょっと後悔)