「混乱期において剥き出しにされる人間の本性」シビル・ウォー アメリカ最後の日 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
混乱期において剥き出しにされる人間の本性
正直いうと、もっと戦闘場面が中心の作品かと思っていたのだが、もちろん戦闘場面は必然的に描かれてはいるもののドンパチよりもむしろ人間の心の動きを描き出す作品となっていた。その意味では、いわゆる「戦争映画」を期待していた人には物足りないかも知れない。
本作が現実社会における社会の分断を表象として、「内戦」というのは実際には極端だとしても、風刺的に描いていることは誰の目にも明らかだろう。ただ、カルフォルニアとテキサスが手を組むという現実ではあり得ない設定にすることで、単純な民主党対共和党といった構図で物語が構成されることを回避している。そして、大統領もどちらの立場なのかもわからず、だからこそ単なる一人の個人としての資質が明らかにされることになる。
さらに、政治的信条とは無関係にある程度公平な立場を取ろうとするジャーナリストや、内戦が起きていることなど知ったことではないと全くの無関心な層、さらに、内戦状態に乗じて好き勝手に人を殺している自衛団的な層なども併せて描かれることで、混乱期において剥き出しにされる人間の本性が炙り出される。
社会の分断はアメリカに限った話ではなく、日本を含めた世界各国で起きていることであり、また、実弾こそ使わないかも知れないが、容赦なく他人を傷つけ心をズタズタにするようなことばの応酬による戦いはネット上で日々繰り返されている。
本作は、初めは惨状を直視できなかったジェシーの成長譚でもあるが、我々一人ひとりが自らの心持ちをどこに置くのかを問われる話でもあるのではないだろうか。
ちなみに、邦題の「アメリカ最後の日」は不要だろう。