「主人公たちはどういう種類の記者なのか」シビル・ウォー アメリカ最後の日 Tiny-Escobarさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公たちはどういう種類の記者なのか
背景を敢えてぼかして語られるアメリカの内戦。
劇中の大統領は3期務めていることから大統領時代のトランプの発言をベースにしているようにも見えますし、武装蜂起を許す脇の甘さや喧嘩慣れしていない政府軍の動きからすると、今の民主党政権のようにも見えます。
現実のアメリカが現在進行形で突き進んでいる地獄にタバスコをひと瓶ぶっかけて過激にしたような設定は、見事でした。
ただ、ストーリーの面で言うと、背景をぼかした副作用で少しピンボケになってしまったように感じました。
最初の大統領の場面以外は、主人公4人の視点から逸れることはないので、足取りをずっと追うことになります。彼らの目的は、大統領が死ぬ前にインタビューをすること。バーでそう話している姿を見たとき、ジョエルとリーからただならぬジャーナリスト魂を感じたわけなんですが。
蓋を開けてみると、彼らは内戦全体を俯瞰しているジャーナリストというより、西部勢力側の記録係のような位置づけでした。
なので、私は最初から最後まで4人の誰がどう死んでも構わないと思って観ていました。彼らがカメラで切り取っているのは、西部勢力が戦う姿。彼らの写真が教科書に載れば、西部勢力が英雄として描かれます。
その後、仮にフロリダ連合と仲間割れして、フロリダ連合が西部勢力を追い出せば、彼らについていたカメラマンが写真を『上書き』します。
それはジャーナリストか? 単なる軍属のカメラマンでは?
そういう違和感もあり、リーがサミーの遺体の写真を消す場面では、この人は報道する側としての矜持を完全に捨てたなとがっかりしましたし、ジョエルがサミーの死を嘆く場面でも、情緒やば…ぐらいの感想しか出てきませんでした。
なんとなく、それまでの彼らの『楽しそうな』ノリに、振り落とされた感があります。
ただ、それを打ち消すぐらいに戦闘が派手なので、銃や爆発が大好きな私としては、いい塩梅に楽しませてもらいました。
小道具まで凝っており、例えば民兵が持っているAR15は民間仕様の16インチ銃身が多く、西部勢力のような兵士はちゃんと素に近い10.3インチ銃身のCQB-Rを持っていたり、芸が細かいです。
あと、民間人が普通に生活している中での戦争だからだと思いますが、地雷が出てきません。
そんな中、最も記憶に残ったのは、赤メガネの軍団がリーたちを拉致した後、乗っていたランクルを隠さずに道端へ放ったままにしている場面でした。仲間を敢えて呼び寄せて、1人でも多く殺すことしか考えていないような、独特な思考回路。
赤メガネ自身がどういうアメリカ人なのか分からないままなのも、怖いです。
今は愛想笑いで日常生活を送っていても、みんな一枚めくればあんな感じで、必ず『どっちかの側』にいるのではないかと、良くもない想像をさせてくれます。