「状況と瞬間を濃密に焼き付けた一作」シビル・ウォー アメリカ最後の日 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
状況と瞬間を濃密に焼き付けた一作
冒頭、スピーチ練習をする大統領の言い回しには、かの元大統領を思わせるものがあるし、この映画の挑発的設定がいくらかリアルに感じられるのも、我々の脳裏に議事堂襲撃事件が鮮烈に刻まれているからだろう。だが、結論から言うと本作は特定の人物や党を連想させることなく、あえて事の経緯は曖昧なまま、分断の果てにある状況そのものを描き出す。と同時に、これは世界各地の紛争を我が身に置き換え体感する映画でもあるのだと感じる。そのカオスを分け入るロードムービーの動線を担うのは銃の代わりにカメラを構えたジャーナリストたち。一つの車に同乗する性別、世代の異なる彼らは時おり疑似家族のように思えたりも。はたまた感情豊かな新米と冷静沈着なベテランの対比は一人の写真家の出発地と現在地を集約させているかのようだ。世にある歴史的瞬間を記録した一枚に写真家らの姿はない。その切り取られた世界の外側や背景を自ずと想像させる秀作である。
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