「衝撃のラスト 実は”影の主人公”が…」シビル・ウォー アメリカ最後の日 たけさんの映画レビュー(感想・評価)
衝撃のラスト 実は”影の主人公”が…
恐らく見た人の多くが「思っていたのと違う」と感じたのではないか。
分断が進むアメリカを舞台にした「シビル・ウォー = 内戦」というタイトルの映画であれば、保守とリベラルとか、白人と有色人種とか、わかりやすい対立軸が明示され、それぞれが互いを理解することなく真っ向から戦い合う。見る側は、良くも悪くもそのどちらかに感情移入してハラハラしながら見守る… 少なくとも自分はそんな”単純な”構図を想像していた。
ところが。実際は最後まで映画を見ても、なぜ内戦が起きたのかも誰と誰が戦っているのかも(政府と反政府が戦っているというのはわかるが)、全くわからない。それが不気味である。
「内戦」というタイトルではあるが、実際は「革命」に近いような気がする。
途中、カダフィやチャウシェスクという独裁者の名前が出てきたりして、あくまで個人的な推測だが、この映画の背景も、独裁的な米大統領を倒そうと反政府軍が立ち上がったということだったのではないだろうか。だからこそ最後に独裁者は殺される。フランス革命も東欧(ルーマニア)革命も、指導者は殺された。そして米大統領もあっさり殺害され、兵士たちは死体とともに記念撮影をする。
このラストシーンが秀逸だ。その直前まで、映画の主人公は戦場カメラマン…ベテランと新米の2人の女性が過酷な状況を生き抜きながら、「内戦」の真実に迫ろうとする物語であるように見える。
ところがこのラストでそれはひっくり返る。彼女たちをサポートし続けてきた男性(ジョエル)が、いわば「影の主人公」としてその立ち位置を明らかにするからだ。
振り返ると、ジョエルは新人カメラマン・ジェシーを同行させ、キルステン・ダンスト演じるリーに反発されるが、無理を押し通す。そしてクライマックスでのホワイトハウス突入時には、ジェシーをかばって撃たれたリーを全く気にすることなく、ジェシーを連れて行き、大統領最期の瞬間を撮影させるのである。しかも兵士たちが大統領を撃とうとするところに待ったをかけ、「彼らに殺さないよう言ってくれ」という”独裁者らしい最期の言葉”を引き出すのだ。
まさにその瞬間が「革命」完結の瞬間であり、そこに立ち会い、その記録(写真)をカメラマンに撮らせることこそがジョエルの究極の目的だったのではないか。
ちなみに映画を見終えた後で気づいたのだが、この作品にはスマホが(多分)出てこない。メディアも大半はいわゆるスチールカメラである。(若干、ビデオカメラが出てくるが)
冒頭の、街中での暴動騒ぎでもジャーナリストたちがカメラで撮影するが、一般人がスマホで撮影したりはしない。ということは実はスマホ以前の話なのか、それとも別の世界線なのだろうか…
首都の陥落、スチールカメラマンの活躍というところから、自分は何となくベトナム戦争を連想してしまった。あの戦争も結局、米ソが後押しした「内戦」であったが、もしかしたら現在のアメリカという国でベトナム戦争的なものが起きたら、みたいな意図もあったりしたのだろうか。
本当にいろいろな見方ができる、いろいろ考えさせられる素晴らしい作品だった。