「「お前はどの種類の日本人だ?」への正解を想像できるか」シビル・ウォー アメリカ最後の日 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
「お前はどの種類の日本人だ?」への正解を想像できるか
アレックス・ガーランド監督には「エクス・マキナ」や「アナイアレイション 全滅領域」などSFの印象が強かったので、新作が内戦を題材にしたアクションスリラーと聞いて意外に感じたものだ。だが実際に見ると、この「シビル・ウォー アメリカ最後の日」も米国の政治的社会的現状を客観的にふまえつつ、近い未来にもし内戦が勃発したらどんな戦闘や混乱が起こり得るか、それをジャーナリストが取材しようとしたらどんな行動をとるのかといったことを、出来る限りの科学的な正確さでフィクションとして描くという点で、広義のサイエンスフィクションと呼んでもよいのではと考えを改めた。
それにしても、ガーランド監督(脚本も担当)と製作会社A24の機動力には恐れ入る。2020年米大統領選の不正を訴えた当時現職トランプの過激な支持者らが米国議会議事堂を襲撃したのが2021年1月。それが映画の直接的な出発点ではないにせよ、インスピレーションの1つにはなったはず。ガーランドとA24は2022年1月までに契約を交わし、次の大統領選が行われる2024年の4月に米英での公開にこぎつけた。
映画では、連邦政府から19州が離脱し、テキサス・カリフォルニアの西部勢力が大統領側の政府軍と武力衝突を繰り広げていると説明される。赤い州(共和党支持)のテキサスと青い州(民主党支持)のカリフォルニアを組ませた点が脚本のしたたかさ。大統領選の年に公開されたことも考え合わせると、もし反政府勢力が赤い州か青い州のどちらに偏っていたら、本作が政治的プロパガンダだという非難をまず間違いなく浴びていただろう。そうしたリスクを回避するための戦略的な設定だと考えられる。
民間人の遺体を処理する武装集団のリーダー的存在、赤いサングラスの男を演じたジェシー・プレモンスは短い出演時間ながらも強烈な印象を残す。予告編にも使われている、ワシントンDCに向かうジャーナリストたちに向かって「お前はどの種類のアメリカ人だ?」と問う台詞が、米国の分断の根深さを象徴している。
昨年公開の「福田村事件」で描かれた、香川から関東を訪れていた行商の人々が、朝鮮出身者ではないかと村人たちから疑われる場面が思い出される。近い将来、日本でまた大規模な災害と大混乱が生じ、自警団とそれに追従する人々が似たような暴走を起こす可能性がまったくないとは言えない。そんな状況で、「お前はどの種類の日本人だ?」と問われたら、果たして何と答えるのが正解なのか。そんな想像をすることで、この「シビル・ウォー」がよりリアルに迫ってくるだろう。