劇場公開日 2024年10月4日

「アメリカ的な能天気さにイライラさせられる」シビル・ウォー アメリカ最後の日 アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0アメリカ的な能天気さにイライラさせられる

2024年10月4日
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鑑賞方法:映画館

字幕版を鑑賞。原作はなく、監督が執筆した脚本に基づいたストーリーで、アメリカで 19 の州が連邦を離脱して独立しようとして内戦となり、その戦闘を報道しようとするジャーナリストと戦場カメラマンの話である。独立運動を始めた州はカリフォルニアとテキサスが中心で「西軍」と呼ばれており、政府軍は相対的に東軍となる。西軍が独立しようとしている動機などは触れられておらず、映画はアメリカが内戦状態に陥った状態から始まり、いきなり自爆テロが起こって、観客は否応なく戦場の真っ只中に置かれる。

時期的に大統領選が発端かとも思ったが、カリフォルニアは民主党支持でテキサスは共和党支持なので、大統領選が原因ならばこの2州が連合するとは考えにくい。また、民主支持は西海岸のみならず東海岸のバージニア以北の州もそうなので、西軍という分け方にはならず、海岸軍と内陸軍という括りになると思われる。

主人公らは内戦状態にある国土を西軍に従ってニューヨークからワシントン DC に向かって移動し、大統領にインタビューするという無謀な目的を持っている。政府軍ではジャーナリストを大統領の暗殺を目論む危険人物と断じていて、大統領に接近しようとするジャーナリストは無条件で射殺されるというので、無茶にも程がある。一行はベテランのジャーナリストとカメラマンなのだが、そこに若い女性カメラマンが加わる。

その若い女性カメラマンは、今時フィルムカメラを使っていて、現像してフィルムスキャナでスマホに取り込むという手間のかかることをやっている。速報性を求められる戦場カメラマンがフィルムカメラを使うことなど何のメリットも感じられず、一体何のための設定なのかと非常に困惑させられた。

この若い女性カメラマンは、典型的な現代的なアメリカ女性で、緊張感のなさと未熟さが許し難いほどである。仮にも内戦状態にある市街地で簡単に単独行動を行ったり、ふざけて別の車両に乗り込んだりと、到底付き合いきれない。車内が血まみれになってしまったのを他人が綺麗に拭き掃除しているのを目にしながら、全く手伝おうとしないなど、未熟にも程がある。しかもその血は、自分を助けてくれようと体を張ってくれた人の血だろうに。流れ弾にでも当たって早々に消えるのではと思ったが、予想は大きく裏切られた。やがて未熟な行動の代償を支払うことになるが、その相手が戦争犯罪者というのはあまり釈然としなかった。

戦時下であっても、意図的に戦闘員以外を殺害するのは殺人であって、重大な犯罪である。軍服を着た者が、敵か味方かわからないまま民間人を大量に殺害しているというのは、アメリカの民度が問われる表現だと思うのだが、これで問題にはならないのだろうか?この犯人がアメリカ人とそれ以外に対して明確に違う態度を見せるのは、トランプ批判のように感じられた。このシーンで赤いサングラスをかけた兵士役は、当初別の俳優が当てられていたが、トラブルで降板したため、急遽リー役のキルステンの実の夫が代役を務めたらしい。代役とは思えない迫力ある演技だった。

この映画のタイトルは「シヴィル・ウォー」ではなくて、「戦場カメラマン」だろうと思ったが、いくら何でも突入部隊の先頭集団と一緒に行動するというのはやりすぎだと思った。ヘルメットも身に付けずに銃弾の交錯する中に身を晒してシャッターを押すなどというのは、時代遅れのヒロイズムにしか感じられなかった。この時代なのだから、ドローンを飛ばして遠隔で撮影すれば十分ではないか。ベテランの男性ジャーナリストも、戦場の真っ只中で飲酒して寝落ちするなど、正気かと言いたいほどの能天気さが神経に障った。

戦時下であるのに水道や電気などのライフラインがほぼ正常というのは緊張感を欠いていたし、副題の「アメリカ最後の日」とは何を指すのか意味不明だった。虚偽広告と言われても反論できないレベルである。そもそも兵士でなくてジャーナリストが主役というのには鼻白むものがあった。戦場の事実を報じるとかご立派なことを言いながら、所詮は他人を出し抜いてスクープをものにすることしか考えておらず、報道の自由とか綺麗事を言いながら、自分に都合の悪いニュースは報道しない自由を行使する連中である。この映画の主人公が新聞記者だと知っていたら観に来なかった。音楽もまた緊張感を欠くばかりで、何の役にも立っていなかった。もっといくらでも面白くできた話だろうにと、残念な思いを持て余した。
(映像5+脚本3+役者3+音楽1+演出3)×4= 60 点。

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2024年10月6日

身に余るお言葉畏れ入ります。

アラ古希

とても素晴らしく為になるレビューありがとうございます。私は日本人で戦時下の事もアメリカの方々の考えなどは解りかねますがあなたならきっと100点以上の映画が撮れるに違いありません。まずはこの映画のリブートをお願い致します。

映画を純粋に楽しむ人。御託を言う奴は完璧な映画を撮ってみろよ。
アラ古希さんのコメント
2024年10月5日

あんな女を乗せたばかりに死者が出たんですから酷いもんでした。

アラ古希
Mさんのコメント
2024年10月5日

二人を死に追いやったのは、間違いなくあの女性でしたね。
最初は当たり前の感情を持つ人間だったのに、いつの間にか狂っていくのが不気味でした。
レビューの中には彼女の「成長」の物語だというものもあり、人によって受け取りかたってこんなに違うんだと驚きました。
フィルムカメラの件、まったく同感でした。

M