劇場公開日 2025年5月16日

「実際の事件に基づくが、創作された主人公により衝撃と余韻が増した」ガール・ウィズ・ニードル 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0実際の事件に基づくが、創作された主人公により衝撃と余韻が増した

2025年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

驚く

第1次世界大戦直後のデンマークで実際に起きた犯罪に基づき、時代と地域はそのままに、モノクロの映像で当時の雰囲気を再現している。スウェーデン出身のマグヌス・フォン・ホーン監督はこの事件がデンマーク以外ではあまり知られていないことから、事件を起こした人物ではなく、意図せず大変な状況に巻き込まれていく創作された女性カロリーネを主人公に据えた。その工夫により、観客もカロリーネの目を通じておそるべき事実を知り衝撃を受けることになる。また彼女に感情移入することで、自分や身近な人が似たような状況に置かれたらどうするだろうかと、答えの出ない問いを鑑賞後も抱え続けるのではないか。

本作はあまり予備知識を仕入れずに鑑賞したほうがいいだろう。とはいえ、貧困、望まぬ妊娠や出産、第1次大戦後(1919年頃)の社会状況などがテーマに関わっていることくらいは、観るかどうかを判断する基準として知っていても問題ない。影響がよく指摘されているミヒャエル・ハネケ監督の映画の中では、題材はやや異なるが「愛、アムール」に近いものを感じた。

映画の内容には直接関係しないが、プレス向け資料に早稲田大学名誉教授の村井誠人氏が寄せた解説の中で、望まれない新生児の誕生後、頭頂の頭蓋骨が閉じる前の柔らかい部分「(大)泉門」に針を刺す間引き(口減らし)の方法があったと書かれていて、これも衝撃だった。気になってネット検索したところ、英文の学術論文がいくつか見つかった。「Sewing needles in the brain: infanticide attempts or accidental insertion?」と題された論文によると、大泉門を通して脳に縫い針を刺す行為は、科学文献では40例が報告され、トルコとイランで多く、北欧や東欧などでも確認されたという。また、脳内に針が残ったまま成人することもまれにあり、同論文では82歳のイタリア人女性、また1970年に掲載された別の論文(Attempted infanticide by insertion of sewing needles through fontanels)では、32歳男性と31歳女性からそれぞれ脳内の針が見つかったという。

余談を長々と申し訳ない。もし本作の鑑賞後に興味を持った方が調べる手がかりになればと思い、書き残しておく。

高森 郁哉
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。