劇場公開日 2025年9月5日

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「"英雄"になりたかった」リモノフ とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0"英雄"になりたかった

2025年8月25日
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知的

難しい

斬新

=疎外感が生む英雄症候群と右傾化のメカニズム

人間を突き動かすのは、理屈じゃなくて感情・情動。昨今の世界的な右傾化のメカニズムを紐解くよう。どうやらウクライナ侵攻は本作の製作中に始まったらしい。
"何者か"になりたかった。その生涯で実に様々な職業・肩書を体験してきた彼が、本当になりたかったものは…?"英雄"になりたかったイタい・拗らせた奴が、ずっと芽が出ないまま燻り続けていたのに、かなりオジサンになってから遅咲きでいきなり若者たちからロックスターみたいにチヤホヤされてプチバズ状態突入する話(※敢えて"伝記映画"とは呼ばない)に、ロシアを重ねる。ずっと悶々としながら半生を過ごし、死を偽る妄想癖…理想と現実の乖離に悩む憐れ・惨めな自分も、自分の偉大さに気づかない世間も終わらせて"英雄"になる英雄症候群(=ジョーカー的)。そして、作品での描かれ方としても、ロシアの変遷を内在化した男。

・ウクライナで過ごす青春時代→
・モスクワに上京するも、祖国に馴染めず国外逃亡→
・海外で孤独・疎外感に悩まされる→
・国外で評価されて飛びつく→
・あれだけ合わなかった祖国を、海外で外国人にディスられて腹立つ→
・結局、自分の居場所は見つけられないままだし、ムカついた反動で国家ボリシェヴィキ党結党?!
・当院の若者たちにチヤホヤされて浮かれ調子乗り(やっと自分の居場所見つけられた・夢を叶えられたね…って他国侵攻しとるわ!!)

いや、こう書いたらマジで滅茶苦茶なんだけど、実際そうで、本当に軸など無くブレブレ感情人間。大事なのはその時のノリと勢い!結局、自分の居場所が見つけられない人は、自分が変わらない限りどこに行っても同じことになる。そんなワイルド・サイドを歩くような危うさを体現するベン・ウィショーの熱演と意識的な出演作選び!ポスタービジュアルにもなっている50代のリモノフに扮したベン・ウィショーが格好良かった。
アンチヒーローと人間としての根源。批評性を持つように距離を置くことで見えてくる両義性と、最後まで描ける二面性。正直、モデルとなったリモノフという実在の人物を知らなかったが、本編を見ていて後半一瞬で彼に三島由紀夫からの露骨すぎる影響が見て取れた。ジム・モリソン、レーニン、三島由紀夫が好きなら仲間。

振り落とされそうなほどエネルギッシュ&ハイテンションで、一体どう観て何を感じ取ればいいのか迷うくらいカオスな2時間超(だけどそこにキャッチーさがあるわけではない)!その中で、主人公リモノフのムードに合うように退廃的なヴェルヴェッツ&ルー・リードはじめ、監督自身の地価流通したものに触れていたであろう青春時代からの強い影響を感じさせる選曲が、露骨すぎるけどしっかりツボ。タクシードライバーみたいな格好しながら「『タクシードライバー』みたいに書け」と言われて、そのジャケットの中にはラモーンズTシャツ着ながらPretty Vacant/セックス・ピストルズをバックに80年代を一気に駆け抜ける舞台的な演出。
自由はあるけど何も重要じゃない西側と、自由はないけど全てが重要な東側。"古き良き時代(good old day)とはよく言ったもので、色んな問題を無視して一定数「あの頃はよかったね」と満たされない思いを抱えた思い出補正(サウスパーク風に言えば懐かしベリー)で言う・ノスタルジーに浸る人たちがいるからこそ、ロシアで言えばソビエトなど昔に戻ろうという動きが起こり、また支持されてしまう。けど、そんなのクソだ!!

P.S. 作中、妄想エレナに「僕たちならここから出ていける」みたいにダイナーで言うセリフの、"go home"と"shit hole"で韻踏んでいるのが、なぜか印象に残った。

勝手に関連作品『LETO』『ジョーカー』『バイス』

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とぽとぽ