「あの夢物語のアンチテーゼ」ANORA アノーラ totocinemaさんの映画レビュー(感想・評価)
あの夢物語のアンチテーゼ
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ストリップクラブで働く女性アノーラが、若い金持ちボンボンに見初められ、勢いそのままに結婚。序盤は『プリティ・ウーマン』のロマンティックな夢物語を想起させる。
しかし本作は、その期待をバッサリ裏切る方向へ。身勝手な行動が親にバレそうになった瞬間、無責任な夫は、妻を置き去りにしてさっさと一人で逃亡。そこに愛はなく、あるのは金銭と愛欲で結ばれた関係に過ぎなかったことを観ている側は一瞬で感じ取る。
「ここで悟るべきだった」と思う一方で、アノーラはここから暴走ともいえる行動に出る。関係がすでに破綻している危うさを感じつつも、教会で結んだ「真実の愛」の可能性に賭けてしまう。その選択の重さが、彼女を引き返すことのできない感情の深みへと誘っていく。
ラストシーンで印象的なのは、示談金を得たにもかかわらず、彼女が決して晴れやかな表情を見せない点だ。金は手に入り、やり直す手段もある。それでも心は満たされていない。愛を手に入れたと信じてしまった自分自身をどう扱えばいいのか分からないまま、感情の捌け口として、自分に好意の目を向ける別の男と交わろうとして画面は暗転する。
『アノーラ』は現代版『プリティ・ウーマン』ではなく、その幻想を信じた後に残る現実を描いたアンチテーゼ。救いはないが、否定もしない。その曖昧さこそが、観るものにとって評価が分かれる部分だと思う。
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