「祭りのあとの虚しさ」ANORA アノーラ ゆり。さんの映画レビュー(感想・評価)
祭りのあとの虚しさ
本作は新聞の映画欄でもお勧めしていたけど、セックスワーカーの話ですから観るのをためらいました。アカデミー賞を取ったなら女性客も居るだろうとようやく鑑賞です。
職業に貴賤は無いという考えはありますが、私はそれは建前だと思います。もちろん絶対的な価値観ではないから、何が”貴”で何が”賤”か、あるいはすべて同等であると思うかは人それぞれです。大好きな事を仕事に出来て幸せだと言うセックスワーカーはほとんどいないと思いますので、それを選んだ或いは選ばざるを得なかった背景の事は考えてしまいます。
その立場での観る前の予想では、社会の底辺に居る女の子がしたたかに生きる姿を描いているのかな、でしたが。
アノーラは引き締まったヒップがきれいでスタイルが良く魅力的ですが、表情は曇っていることが多くて、疲れた感じに見えました。イヴァンを大金持ちと知ってパーティーや旅行でははしゃぎまくったのがピークで、その後のプロポーズは幸せの絶頂のはずなのに、それより底辺から抜け出せる嬉しさの方が強いように見えました。
イヴァンが逃げ出した時点で互いに愛情のかけらも無いと分かったのに、それでも妻の座にしがみ付こうとする姿は哀れでしか無かったです。
屋敷で大暴れしたのも、知人の店でなりふり構わず迷惑をかけたのも、逞しいとかパワフルだとか言うより、醜態を晒したとしか思えませんでした。あと、アメリカ人の言葉の汚さには本当にうんざり。
イヴァンのクズっぷりは最高でしたが、両親はあそこまでイヤな人物にしなくても良かったのに。この結婚には当然反対するのが親心ですから。
イゴールの真心に触れて初めてアノーラが嗚咽したのは良かったです。ただ、こういう展開こそ、まさに日本のドラマや映画の得意分野ですから、私には新味は無いです。
それでも、この場面の二人の演技は素敵だったし、演出もすごくお洒落だなと思います。
そういえば、昔からの夢のアメリカに住みたいという理由で、かつて自分が振った人がアメリカ勤務になったと聞いて訪ねていって結婚にこぎつけた友人がいます。(あなたの事が忘れられなかったの、と言ったそうです。嘘ではないけど)現実では、打算から始まって本物になることもありますね。映画にはしにくい話ですが。
アノーラは打算だけの虚しさに気付いたと思うので、幸せになれそうな気がします。
女性として「女を買う」という響きにはやっぱり嫌悪感しかなく、アノーラはいつになったら自分だけを愛してくれる人に出会えるんだろうなと思いながらエンディングになりました。
あんな出会い方で上手くいくわけないと思いつつ、そういえば永住権狙いで彼氏見つけてる人いるなぁとも思いました。