「シンデレラストーリーの意味を考え直す」ANORA アノーラ nakadakanさんの映画レビュー(感想・評価)
シンデレラストーリーの意味を考え直す
主人公と御曹司の生活の超絶格差を見せつつ結婚まで盛り上がり、そこからの落差とブラックなコメディ展開も面白かったですし、そこからのラストも胸を打ちます。
冷めた表情を垣間見せたり、主人公も愛がないことは分かっていたとは思いますので、結婚のラブラブぶりやロマンチックな演出も皮肉なのかと。
露骨に差別的な態度の金持ち家族も醜悪ですが、御曹司のクズっぷりも酷い……
エンタメ的には偉そうな金持ちを見返してスカッと、みたいなストーリーになりそうですが、この理不尽なラストが現実なのかと思うとやはりやるせないです。
主人公だけでなく、金持ちの命令に振り回されるお目付け役たちにも同情してしまうところが。
怪我をしたまま病院にも行けず、命が危ういのではという状況にハラハラさせられましたが、結局どうなったのか……
ラストの主人公の行動は、用心棒に対価を払おうとしたとか、用心棒もどうせ下心があるのだろうと疑っていたとか、そういう感じかと解釈しましたが。
しょせん人間性は無視され性的な欲望の対象としてしか見られない、これまでもそうだっただろうけれどそれを徹底的に突き付けられた、そのやるせなさなのかと。
しかし、やるせなさの中にも、用心棒との関係性に光も感じるラストだと思いました。
主演のマイキー・マディソンの演技も素晴らしいですし、御曹司のボンボンっぷりや用心棒の朴訥さもそれぞれの人物像が際立つ演技で良かったです。
ポスターなどでは「シンデレラストーリーのその先へ」というコピーがついていて、シンデレラストーリーとは何か違うような……とも思いましたが。
しかし、考えてみるとシンデレラも、蔑まれながら働かされている、舞踏会で地位と財産のある王子様に見初められて結婚する、という流れで。
舞踏会は財力を使って女性を集めて品定めをしているものと思われますし。
シンデレラは王様の息子という肩書以外は王子様のことは知らない、王子様も多くの女性の中から美しさでシンデレラを選んだ、お互い相手の人間性で選んだわけではなく地位や外見など表面的な部分で選んでいると思われますし。
シンデレラストーリーというのは、かなり合っているのかもとも。
とは言え、シンデレラのストーリーについては絵本の知識のみなので、厳密には分からないのですが。