劇場公開日 2025年2月28日

「ラストシーンが最高」ANORA アノーラ ゆるさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ラストシーンが最高

2025年3月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

監督の強いメッセージ性をこれでもかも感じられるエンタメ作品。

ロシアの富豪の息子イヴァンは、主体性のない幼児的な人物として描かれ続けます。
幼い頃から面倒を見てくれる側近、ベガスの支配人…一見すると多くの人を従えているようですが、住まいやプライベートジェット同様に彼らの目線の先にあるのは両親です。
ストリッパーのアニーはイヴァンのお気に入りになり、彼女になり、妻になる。
セックスをしている時以外、不安げな顔でイヴァンの機嫌を伺うのは、特別を失うのが怖いからでしょうか。
名もない自分が何者かになるには、男に選ばれるのが手っ取り早い。彼女の場合それが分かりやすい職業ですが、現代日本でも同じですよね。自分で稼ぐ能力のない女性が、経済力のある男性の妻(や、その子を産んだ母)というこおをアイデンティティにする…というのはよくあります。
イヴァンの周りに集まる友人は、こぞって低収入の大衆でした。彼らもまた、裕福な友人を持つことで自分が特別な何者かになれると思っていたのでしょう。

でも、他人の力では何者にもなれない。

それはイヴァンも同じことです。
親が裕福で全てを与えられていても、彼は自分の意思すら持てていない愚か者でした。
アニーの家族は裕福ではなさそうでしたし、マイアミで新しい彼氏と暮らす母…というセリフからいい感情を抱いていないことが分かります。
この対比がまた、メッセージをより強固にしています。
生まれが裕福でも貧しくても、特別な誰かになれるかということには、本質的に影響はない。
自分の人生をいき、自分で切り拓くことでしか、人は社会で何者にもなれない。ジャンプアップで突然変異するなんて有り得ないのです。

これでもかというくらい『現実』で叩きのめされ最高でした。

ゆる