劇場公開日 2025年2月28日

「“希望”ではないが“絶望”でもない」ANORA アノーラ シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5“希望”ではないが“絶望”でもない

2025年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年はNHKBSで第97回アカデミー賞が放送されていたので録画してからざっと眺めたら、本作が作品、監督、主演女優、脚本、編集の5部門も受賞していたので、早速近所のシネコンに見に行きました。
まず久々にアカデミー賞を見ましたが(流して見ただけですが…)、昔と雰囲気が変わっていて時代の流れを感じました。
一番驚いたのはBLACKPINKのリサが出ていた事でしょうかね(笑)
まあ何にしろ昔の華やかなお祭り騒ぎ感がノミネート作品の地味さからかあまり感じられませんでしたね。
とにかく(まだどの作品も見ていないのであくまでもイメージですが)“アメリカ人万歳”的な感覚はほぼ無くなりつつあり、ノミネート作品も他の海外国際映画祭の様な作品が並び、エンタテイメントよりもアート寄りの作品が多くなっていたように感じられました。

で、本作も見終えて深さは感じられましたが、今までのアカデミー賞向きでは無い様な気もしました。これも時の流れなのでしょうね。

とりあえず本作の感想ですが、まず物語に登場する誰一人にも感情移入はおろか、親近感のわく人物像を全く配置させない事から現代性を感じてしまう。
主人公は性産業を生業にしている女性がであり、後はロシア系の財閥とその御曹司とそれに使える神父やら用心棒やら取り巻き達。
なので、前半部の欧米映画によくある超リッチな豪邸のパーティーやら自堕落で享楽的な(店内などの室内シーンばかりの)映像には生理的に見ているのが本当にしんどかったのですが、後半からの屋外に出てからが急に面白くなり出しました。

これは私の推測ですが、本作の主人公の名前のアニーは、ひょっとしたらミュージカル『アニー』からの、真逆のパロディでありメッセージなのかも知れないという気がしました。
本作はある種の“恋愛映画”でもある訳ですが、『プリティ・ウーマン』(娼婦と金持ち)や『アニー』(孤児と金持ち)の様なシンデレラストーリーやアメリカンドリームでもなく、決してハッピーエンドでもなく、職業や生い立ち(環境)からくる気質の美化も見せない。
ただあるのは人間の身勝手さと欲望と自堕落さであり、それを生々しいまでに描きながらも、時折見せるアニーの冷めた眼差しであったり、後半から出てくるある人物の持って生まれた様な(優しさなのか?)紳士性であったり、そうしたディテールの積み重ねがあのラストシーンへと繋がり、決して“希望”ではないが“絶望”でもないという現在(現実)性を感じさせてくれる作品でした。

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シューテツ
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