「観る前にハードル上げすぎたかな・・・。」ANORA アノーラ TSアラヨットさんの映画レビュー(感想・評価)
観る前にハードル上げすぎたかな・・・。
ショーン・ベイカー監督の作品といえば、前作の「レッドロケット」が衝撃的に面白くて自分好みでしたが、R18だし「絶対にメジャーヒットは無理」って感じの印象でした。今回、カンヌとアカデミーのダブル受賞ということで、大いに期待して鑑賞したのですが、感想は満足感と物足りなさが入り交じりましたね。
アンチシンデレラストーリーとはよくいったもので、確かにこの映画を的確に表現していると思います。ただ、「レッドロケット」のような、意外な展開はなく、「こんなバカ息子と結婚なんかしても上手くいくわけないやん」と思って観てたら、ある意味当たり前に強制離婚という顛末で終わり。なので、ストーリー自体の面白さとしては物足りなかったかな。
大満足だったのは後半展開される、どこか憎めない連中とアノーラとのバトルチックなやりとりで、ショーン・ベイカーらしさ全開でした。普通なら観てて不快になるようなケンカのシーンが、おかしくて仕方ないというのは、脚本・演出・演者が全部そろって上手いからでしょうね。
あと、ラストシーンとエンドクレジットがそれまでのタッチから急に変わった(ように感じた)ので、少し戸惑いました。観る人によっていろんな解釈ができるラストだと思いますが、イゴールと結ばれてメデタシ、みたいなロマンティックなものではなく、そもそも彼女の人生はまだ続くのだということを示すために、あえて終わりっぽくないエンドロールにしたのかと。とにかく余韻の残るエンドロールでした。
それにしてもこの映画がアカデミー賞作品賞を受賞するというのは、時代の変化を感じます。昔はカンヌ受賞作はアカデミー賞にノミネートされることすら少なかったのに。アカデミー賞らしい、メジャー大作で質も高いという作品が少なくなっている昨今、当面こういう傾向が続くのかなと思いますが、こういう賞って個性があって全然別の映画が受賞するほうがファンとしては楽しいのですが。