劇場公開日 2025年2月28日

「『ショーン・ベイカー』が真冬のNYに魔法をかける」ANORA アノーラ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5『ショーン・ベイカー』が真冬のNYに魔法をかける

2025年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

ニューヨークでストリップダンサーとして働く『アノーラ/アニー(マイキー・マディソン)』は、
時として売春まがいの行為もし、糊口を凌いでいる。

ある日、所属するクラブでロシアのオリガルヒの御曹司『イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)』と知り合い、
一週間1.5万ドルの報酬で「彼女」になる契約を結ぶ。

さあそれからは友人たちも集まっての乱痴気騒ぎの日々。
終いにはプライベートジェットでラスベガスに繰り出した挙句、
勢いで婚姻届けを出してしまう。

『イヴァン』はグリーンカードを手に入れ、
『アニー』は富豪の一族に名を連ねることになり、
全てが薔薇色のハズだった。

しかしそうは問屋が卸さないのが、
21世紀の{シンデレラ・ストーリー}。

大きく括れば
〔マイ・フェア・レディ(1964年)〕、
〔プリティ・ウーマン(1990年)〕もその範疇。

社会的に底辺に居る女性が
金持ちの男性と出会い惹かれ合い、
最後には結ばれるとの{ロマンティック・コメディ}の側面も持つ、
定型化された流れ。

しかし先の二作品の男性は自立しており、
世間の風評などものともせず、
独断で事を進められる力を持つとの共通点があった。

愛が芽生えた二人の世界に余人の立ち入る隙は無く、
両性の合意によってのみ全てが決められる。

翻って本作の男女は共に二十代前半。

『アニー』は辛苦を舐めた生活から、
世間を判ってはいるものの、
『イヴァン』の方はまるっきりのお坊ちゃま。

働いたことはなく、
親の脛を齧るだけの典型的な「バカぼん」。

両親のコントロール下に置かれ、
自身では何も決めることはできない。

そうした男との将来は
最初から見えているわけだが。

『アノーラ/アニー』を演じた『マイキー・マディソン』の演技が特筆もの。

ポールダンスをはじめとするエロチックなシーンをこなしたかと思えば、
恋する乙女の表情になったりと、猫の目のように変化する。

が、白眉となるのは、
『イヴァン』の両親やその用心棒、ロシア正教会の聖職者と対峙する数々のシーン。

汚い言葉をまき散らし、泣き、喚き、叫び、暴れ、
{スラップスティック}まがいの立ち回りをパワフルに演じる。

その激しさに最初は思わず引いてしまうが、
次第にシンパシーを感じるようになる不思議な魅力が溢れ出す。

140分尺の半分以上を
{シンデレラ・ストーリー}後のリアルが描かれる
極めて異色の展開。

そして余韻を残す最後のシークエンスは、
二人の短い同居生活は
男にとっては「ワン・ナイト・スタンド」の(金で解決できる)余興なのに対し、
女には「純愛」だったことを切なく示すとともに、
世の中捨てたものではないと仄かな希望も持たせてくれる。

ジュン一
momokichiさんのコメント
2025年3月3日

素敵な作品愛のあるレビュー。うなづきまくりでした。

>汚い言葉をまき散らし、泣き、喚き、叫び、暴れ、
{スラップスティック}まがいの立ち回りをパワフルに演じる。
その激しさに最初は思わず引いてしまうが、
次第にシンパシーを感じるようになる不思議な魅力が溢れ出す。

大いに同意!
引いてしまうんですが、なんだか応援したくなるんです。
激しいけれど、折れそうなほど華奢で、眼が可愛くて。。

>男にとっては「ワン・ナイト・スタンド」の(金で解決できる)余興なのに対し、女には「純愛」だった

切ない。。。

でも主演女優賞!なんだか報われたみたいで涙でてきた!

momokichi