「シンデレラストーリーの先にある現実」ANORA アノーラ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
シンデレラストーリーの先にある現実
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ストリップダンサーと御曹司との恋愛なんて、うまくいくはずがないと思わせておいて、実は、彼女と彼の純愛を描くラブストーリーになるのではないかと予想していると、話が全然違う方向に転がっていって、良い意味で期待を裏切る展開を楽しめた。
特に、御曹司のお目付け役たちが屋敷に乗り込んで来てからのヒロインの激しい抵抗ぶりと、それ以降の、姿をくらました御曹司を探す彼らの珍道中には、思わず吹き出してしまいそうな面白さがある。
それと同時に、話のテンポがどんどんスローダウンしていって、ドタバタ劇から、しっとりとした味わいのドラマへと変わっていく「転調」ぶりも見事だったと思う。
どうせ、金目当ての結婚で、本当の愛情なんて無かったはずなのに、ヒロインが、あれだけ「結婚の無効化」に抵抗したのは、社会の底辺で苦しんできた者の「意地」があったからだろう。御曹司が、結局、ただのヘタレな放蕩息子だったというオチも、現実の厳しさをありのままに描いていて、「やっぱり、そうなるよね」と納得することができた。
バイタリティーに溢れていながら、ところどころで、ギクリとさせられるような「真剣」な表情を見せるマイキー・マディソンがとても魅力的だし、ぶっきらぼうながらも、彼女に誠実に接する用心棒を演じるユーリー・ボリソフも、良い味を出している。
ラストで、初めて素直な感情をさらけ出して泣くヒロインの姿からは、2人の将来に向けたかすかな希望を見い出すことができるし、無音のエンドクレジットには、深い余韻を感じ取ることができた。
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