「【”ストリッパーが、夢みて何が悪い!”今作はショーン・ベイカー監督ならではの、社会格差、職業差別を浮き彫りにするドタバタコメディ劇であり、ラストシーンは心に沁みる作品なのである。】」ANORA アノーラ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”ストリッパーが、夢みて何が悪い!”今作はショーン・ベイカー監督ならではの、社会格差、職業差別を浮き彫りにするドタバタコメディ劇であり、ラストシーンは心に沁みる作品なのである。】
■ニューヨークでストリップダンサーとして働くアノーラ(マイキー・マディソン)はロシアの大富豪のボンボン、イヴァン(マイク・エーデルシュティン)に気に入られ、彼がアメリカに遊びに来ている一週間の間、恋人契約をし、更に盛り上がった二人はラスベガスに行き、結婚式を挙げる。
だが、その事を知ったイヴァンの監視役のアルメニア人司祭のトロス(カレン・カラグリン)は、怒り狂ったイヴァンの両親がロシアから来る前に、用心棒のイゴール(ユーリー・ボリソフ)とガーニック(ヴァチェ・トヴマシアン)を連れ、二人の結婚を無効にしようとするのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・序盤は、アノーラが働くストリップ店での”ウヒー!エッチー!!”というシーンが描かれ、大変に宜しい。序でに、アノーラとイヴァンが恋人契約をした後に、ヤリまくる姿も大変に宜しい。(痛いから、石を投げないで下さい!)
それにしても、ショーン・ベイカー監督は「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」の可愛いムーニーや、そのお母さんハーレイを演じた鮮やかな紫色の刺青を入れたブリア・ヴィネイトなど、ほぼ素人さんを起用するのが上手い監督である。
今作で、アノーラを演じたマイキー・マディソンも、ほぼ無名の女優さんであったが、この作品での身体を張った演技は素晴らしい。
そして、この序盤での彼女の”イヴァンに気に入られようと頑張る姿”が、後半に効いてくるのである。
・愚かしきボンボン、イヴァンは、用心棒のイゴールとガーニックが、両親保有の豪華な家に来た途端に、アノーラを連れずに慌てて一人でほぼパンツ一枚で逃げ出すのである。
そして、アノーラは二人に対して、部屋の中の装飾品を投げつけ激しく抵抗するも、イゴールに捕まってしまう。だが、この時にイゴールとガーニックは、自分達は散々に痛めつけられながらも、アノーラを傷つけたりしないのである。電話線で手は縛るけれど。このシーンはとても可笑しい。だが、特にイゴールはアノーラを後ろから抱きかかえつつ、そのまま動かないのである。この姿がラストシーンに連動しているのである。
・その後、到着したトロスも含めた4人はイヴァンを探しまわる。個人的には”あんな、甘えたバカ息子は、撃ち殺してしまえ!”と思いながら鑑賞したのだが、イヴァンは捕まり、到着した両親に”バカ息子!”と罵られながら、プライベート・ジェットでラスベガスに行き、”結婚は無かったこと”にして貰うのである。
その際に、イヴァンはアノーラに対し詫びの言葉を一切掛けずにロシアに帰ろうとするのである。”アメリカなんて、来るんじゃなかった。”と言って。
だが、その時にずっと無口だったイゴールは初めてイヴァンに対し”アンタは謝るべきだ。”とボソリと喋るのである。このシーンはちょっと沁みたなあ。イゴールはずっと、アノーラの身の上を黙って聞いていたからである。
■そして、イゴールがアノーラの、線路の直ぐ傍のボロアパートに、彼女の荷物一式を持って行くシーン。彼は彼女がイヴァンから貰った4カラットの結婚指輪を(そして、その後無理やり外されていた。)ポケットから出して彼女に渡すのである。
アノーラはそれまで悪態を付いていたが、その彼の行為を見てイゴールの上に騎乗位になる。そして、彼の胸に顔を埋めて、初めて激しく泣きじゃくるのである。お金持ちに成れず、富豪のロシア人達にいいようにされた悔しさと、イゴールの優しさが綯交ぜになり感情が爆発したのであろう。イゴールはそんな彼女を胸の上に乗せたまま、黙っているのである。イゴール、とても良い奴である。
そして、このラストシーンは、私は実に沁みたのである。
<今作は、ショーン・ベイカー監督ならではの、社会格差、職業差別を浮き彫りにするドタバタコメディ劇であり、ラストシーンは心に沁みる作品なのである。>
今日のショーン・ベイカーの舞台挨拶にサプライズで梶芽衣子が来たそうです。
「アノーラ」は「女囚さそり」にインスピレーションを受けていて、主演のマイキーにイメージ作りに「女囚さそり」を見せたそうです。
オスカー手に登場し「外で拾って来た」とジョークを飛ばしたらしいですよ。
泣きじゃくるアノーラ、黙ってハグするイゴール。車窓に降り積もる雪とワイパーの音。静かなラストでしたね。ユーリー・ボリソフに助演男優賞をあげたかったですね。
>イゴールとガーニックは、自分達は散々に痛めつけられながらも、アノーラを傷つけたりしないのである。電話線で手は縛るけれど。
ほんと。人の良い2人(3人)でした。
>ずっと無口だったイゴールは初めてイヴァンに対し”アンタは謝るべきだ。”とボソリと喋るのである。
胸がすく一言でした。
>お金持ちに成れず、富豪のロシア人達にいいようにされた悔しさと、イゴールの優しさが綯交ぜになり感情が爆発したのであろう。
悲しい。。
情景が再び目に浮かんできて、もう一度作品を堪能することができました。素敵なレビューをありがとうございました。
前半の仕事しているアノーラはプロ意識高く仕事レベル高く美しかった。イヴァンと愛し合うシーンでは大人対応のアノーラ。イヴァンはアノーラを心から愛してるんじゃなくて一生発情期のアホ男なのかな~と思いながら見てました。