「夢見る少女"アニー"から"アノーラ"へ」ANORA アノーラ ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
夢見る少女"アニー"から"アノーラ"へ
「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」、「レッドロケット」に引き続き本作も社会の間・悪に生きる人々にスポットをあてながらもどんな人も優しく救い上げる人間讃歌でした!
ジャンルとしてはスクリューボールコメディという1930年代~40年代ハリウッドで流行った、次から次へと色んなことが起こっていくコメディで、本作もドキュメンタリー風に色んなことが行き当たりばったり的に起こっていきます。
特に物語がアクセル全開で動き出す中盤のイヴァン邸の怒涛の25分間のシーンは何と11日間もかけて撮影が行われたそうで、しかもカメラレンズも昼と夜とパーティシーンと何種類も使い分けられているこだわりのシーンだそうです。本当に劇場もドッカンドッカンウケていました。
「フロリダ・プロジェクト」、「レッドロケット」では物語の背景を説明する大きな要素としでロケ地がありました(ショーン・ベイカー日くロケ地も主役)。
このロケ地でカメラの背景として存在する大きな世界。まさに資本主義社会を代表とするようなディズニーワールドや大工場がありその片隅に生きる小さなコミュニティという構図がありました。
しかし本作は、主人公アニー自らその大きな世界大富豪”の世界に飛び込んでいきます。ロシアの富豪のドラ息子の自宅や(ショーン・ベイカー監督がGoogleで探し当てた本当に昔ロシアの富豪が住んでいた大豪邸!!Mil Basin mansionで検索してみてください)、ラスベガス、コニーアイランドと舞台が移っていきます。
ショーン・ベイカー監督作は彼の奥さんであるサマンサ・クアンさんと「フロリダ・プロジェクト」から本作まで共同制作しており、彼女が俳優でありコメディアンでもあることもかなり影響していると思います。
カンヌ国際映画祭のアノーラを演じたマイキー・マディソンさんのインタビューでは、セックスシーンを撮る際に実際にどう動いて欲しいかショーン・ベイカー監督とサマンサ・クアンさんが自分達で実演見せたというのが驚きでした笑
ラストでイヴァンのパパがアノーラの凄まじさに思わず笑ってしまうくらい、本当に憎めない、愛すべきおバカ達が沢山出てくる。試写会で宇多丸さんがおっしゃっていた落詰の登場人物みたいだと言っていたのが私はすごくピッタリだと思いました。
桂米朝さんの「落語とは現世肯定の芸や」、「落語とは実に 人生の一大百科時点である」という言葉を思い出しました。
ショーン・ベイカー監督作の登場人物には人生を感じることが出来る。
本作が感動的なのは、アメリカのブロードウェイミュージカル「アニー」の主人公のように夢見る少女が、現実の女性「アノーラ」として肯定される話だったからだと思う。
ショーン・ベイカー監督作に共通して大きな世界と感に生きる人々は決して交わらない。本作でもやはりそこには大きな壁があった。アニーはあちら側の世界に行くことは許されない。
劇中、彼女は自分のことをアニーと呼ぶように言う。しかし「アノーラ」は素敵な名前だという男に出会う。そしてラスト。
ショーン・ベイカー監督はラストの意図・解釈に対して敢えて明言をしないようにしている。
"アニー"から”アノーラへ。
アノーラの人生がやっと始まる。そんなラストに私は感じた。大傑作。カンヌ国際映画祭パルムドールは納得。
アカデミー賞も是非獲って欲しい!