ANORA アノーラのレビュー・感想・評価
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どうしようもない現実の重みが心の奥深くに突き刺さる
ニューヨークでストリップダンサーをしているアノーラはくだくだな生活にうんざりしている。暮らしに希望は持てないし、仕事はキツいし。それでも日々明るく、気丈に振る舞うアノーラの前に、客としてロシアの新興財閥、オリガルヒの御曹司、イヴァンが現れ、アノーラはいつものようにお決まりのサービスで対応していた。でも、屈託のないイヴァンを側で眺めながら、彼女の顔が一瞬真剣になる瞬間を見逃さないで欲しい。アノーラは迂闊にも、そこにイヴァンとの未来を見てしまうのだ。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や『レッド・ロケット』でアメリカ社会の最下層で生きる人々にカメラを向けてきた監督のショーン・ベイカーのタッチは、今回も鋭く、時に優しいが、過去作と異なるのは、途中からアノーラとイヴァンの暴走を食い止めるための刺客が現れて、ガイ・リッチーの群像コメディに似たカオスに突入する点。そこでの速いテンポと間を外さない笑いは、映画の観客層を広げる役目を果たしている。
やがて訪れる痛ましいエンディングは、ベイカーならではの複雑な味わいだ。根強い人種差別、職業差別、性差別と懸命に格闘しても、どうしようもない現実の重みが、アノーラを介して心の奥深くに突き刺さるのだ。
夢見る少女"アニー"から"アノーラ"へ
「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」、「レッドロケット」に引き続き本作も社会の間・悪に生きる人々にスポットをあてながらもどんな人も優しく救い上げる人間讃歌でした!
ジャンルとしてはスクリューボールコメディという1930年代~40年代ハリウッドで流行った、次から次へと色んなことが起こっていくコメディで、本作もドキュメンタリー風に色んなことが行き当たりばったり的に起こっていきます。
特に物語がアクセル全開で動き出す中盤のイヴァン邸の怒涛の25分間のシーンは何と11日間もかけて撮影が行われたそうで、しかもカメラレンズも昼と夜とパーティシーンと何種類も使い分けられているこだわりのシーンだそうです。本当に劇場もドッカンドッカンウケていました。
「フロリダ・プロジェクト」、「レッドロケット」では物語の背景を説明する大きな要素としでロケ地がありました(ショーン・ベイカー日くロケ地も主役)。
このロケ地でカメラの背景として存在する大きな世界。まさに資本主義社会を代表とするようなディズニーワールドや大工場がありその片隅に生きる小さなコミュニティという構図がありました。
しかし本作は、主人公アニー自らその大きな世界大富豪”の世界に飛び込んでいきます。ロシアの富豪のドラ息子の自宅や(ショーン・ベイカー監督がGoogleで探し当てた本当に昔ロシアの富豪が住んでいた大豪邸!!Mil Basin mansionで検索してみてください)、ラスベガス、コニーアイランドと舞台が移っていきます。
ショーン・ベイカー監督作は彼の奥さんであるサマンサ・クアンさんと「フロリダ・プロジェクト」から本作まで共同制作しており、彼女が俳優でありコメディアンでもあることもかなり影響していると思います。
カンヌ国際映画祭のアノーラを演じたマイキー・マディソンさんのインタビューでは、セックスシーンを撮る際に実際にどう動いて欲しいかショーン・ベイカー監督とサマンサ・クアンさんが自分達で実演見せたというのが驚きでした笑
ラストでイヴァンのパパがアノーラの凄まじさに思わず笑ってしまうくらい、本当に憎めない、愛すべきおバカ達が沢山出てくる。試写会で宇多丸さんがおっしゃっていた落詰の登場人物みたいだと言っていたのが私はすごくピッタリだと思いました。
桂米朝さんの「落語とは現世肯定の芸や」、「落語とは実に 人生の一大百科時点である」という言葉を思い出しました。
ショーン・ベイカー監督作の登場人物には人生を感じることが出来る。
本作が感動的なのは、アメリカのブロードウェイミュージカル「アニー」の主人公のように夢見る少女が、現実の女性「アノーラ」として肯定される話だったからだと思う。
ショーン・ベイカー監督作に共通して大きな世界と感に生きる人々は決して交わらない。本作でもやはりそこには大きな壁があった。アニーはあちら側の世界に行くことは許されない。
劇中、彼女は自分のことをアニーと呼ぶように言う。しかし「アノーラ」は素敵な名前だという男に出会う。そしてラスト。
ショーン・ベイカー監督はラストの意図・解釈に対して敢えて明言をしないようにしている。
"アニー"から”アノーラへ。
アノーラの人生がやっと始まる。そんなラストに私は感じた。大傑作。カンヌ国際映画祭パルムドールは納得。
アカデミー賞も是非獲って欲しい!
金銭の会話のみ成立する男
おもしろい!
風俗嬢とロシアのバカ息子の恋の行方やいかに?
IMDb での評価8.2、61人の評論家のメタスコア平均91、しかも18禁w、どれだけ危なくて、どれだけ傑作の作品かと思いきや、やっぱりこういう話でしたか…。
風俗嬢アノーラ23才、美人だし、スタイル抜群だし、テクニックもすごそうだし(?)。こりゃロシアのイケメン年下おぼっちゃまだって、簡単に堕とせそうです。
ただね、大豪邸に住むのに相応しくないほど、パーティー三昧、ドラッグ三昧、セックス三昧のバカ息子なんですが、やっぱりイケメンの大富豪なら、そりゃ最高の玉の輿。トントン拍子に行くと思いきや、そうは問屋が卸さないわけで…。
実はカナダの若い女の子もパパ活が流行っているらしく、私もしょっちゅう彼氏がいるのかとか、「パパ」(sugar daddy)を探してるのかなど、ズケズケ聞かれたりします。
ただやっぱり、こういう作品を見ると、誰かに依存しなきゃならないうちは、幸せにはなれないんじゃないかなと思います。
心身を削って、若くて美しい身体を目先のお金のために差し出したとして、年を重ねた後に何が残るのか…、ただのエロ映画としてでなく、そんな深いメッセージを込めた寓話として心に残った作品でした。
追記
ちなみに現代版「プリティウーマン」とかいう評判ですが、後味はあんなに良くないですよ。身体を売る女性たちに見てほしくて星4.5とかつけましたが。
みずみずしい画面、グダグダの物語。
アニー(本名アノーラ)は、ナイトクラブで働くストリッパー。上客を相手にかなりきわどい性的サービスも副業でこなしている。あるときナイトクラブを訪れたロシア人青年は、たちまちアニーに夢中になる。青年は大きな邸宅に1人で暮らしていて、なにやら素性の分からぬ巨額の資産をもっているらしい。彼女が大金を積まれて青年を関係を持つと、青年はさらにアニーに溺れ、結婚を申し出る。アニーは半信半疑のまま青年と婚姻届を出し、ままごとのような結婚生活がはじまる。するとストリッパーとの結婚に驚愕したロシアの親族が乗り込んできて…。
オープニングからしばらくの疾走感、すごいですね。ぶれぶれのカメラ、逆光とハレーション、ほとんどYouTubeみたいなんだけど通俗に転落してはいない。やはりこの監督はかなりの才能。
でも彼はそれだけの才で立派な傑作などを撮るつもりはないらしく、中盤から話はひたすらグダグダになってゆく。グダグダ映画というとカサヴェテスとかジャームッシュとか系譜があるわけですが、あれほどの一種の美意識には到達してないですね、残念ながら。単なるジェットコースター映画に終わっている。これを大傑作と言っているレビュアーは「傑作」を安売りしすぎ。
主演のマイキー・マディソンは今年いちばん大化けした俳優と言われていて、それも納得のいろいろ振り切れた演技がたいへん痛快。彼女の思いきりのよさを楽しむ映画として見れば結構楽しめるのでは。
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