「70点同士の恋」傲慢と善良 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
70点同士の恋
概要なんか見ると、ヒロインがストーカーに付きまとわれてるとか知られざる秘密とか、何か事件的なミステリーを思うが、そんなんじゃない。
男女の恋愛観、結婚観、価値観。それこそミステリー。
恋愛経験乏しい私含め、ラブラブカップルや理想の恋愛を夢見ている人には気まずいかも…。しかし、ハッと気付かせてくれる。
小さいながらもクラフトビール会社を立ち上げた架。
業績は好調。東京生まれ&育ちで、いい学校の出。住んでるマンションも乗ってる車も一流。女性経験も豊富で、イケメンときた。
人生負け知らずの勝ち組。
…しかし、唯一の失敗が。長年付き合っていた恋人から結婚に踏み切らない架に落胆し、破局。
この時の破局理由が男女の結婚観の違いがモロに。“まだ”と“もう”。
ハイスペックな自分に見合う“100点”な相手だっただけに、ショックは意外や大きく…。
そんなハイスペックの架がマッチングアプリで婚活。
しかし、会う女性会う女性いずれも理想に合わず、婚活自体にうんざり。
恋愛に悩むイケメン主人公が真実の愛を見つけるまで…と思ったら、藤ヶ谷太輔ファンかただの鈍感。
言うまでもなく、“傲慢”なのである。
架の性格自体は優しく誠実な好青年ではあるのだが、交際相手に自分もしくは元恋人レベルを求めてしまう。
自分と釣り合わないと交際はNG。婚活で必死アピールしてくる相手に嫌気すら差してくる。
私ゃ婚活もしくは見合いなどやった事ないが、当人たちにとっては人生を決める一大事。
だから必死になるのも分かる。
でもそれって、自分のいい所しか見せようとしない。定番のご職業は? 学歴は?
プラス面を見せたいのは当然だけど、自分のマイナス面を見せる事はいけないの…?
上っ面だけのプラス面よりマイナス面の方がその人の人間味を感じる時もある。
交際してから相手のマイナス面を知り、それが愛着沸く事もあるが、理想と違って落胆する事も。
男女間の関係って難しい。それが婚活の難しさでもある。
求めるもの、求められるもの、現代婚活に一石投じる。
そんな時出会った一人の女性も決して“完璧”ではなかったのだが…、
同じ30代の真実。
性格的には元恋人とは真逆。控え目で内向的。不器用さや鈍臭さも。だって、
隣の席の老女が飲み物を倒す。拭いてあげる真実だが、ちょっとテンパってきちゃって、自分のバッグを落とし散乱。
初対面でこれは恥ずかしい…。本来ならいい所を見せたいのに…。
けどそんな、一点のあざとさも無い健気さ。ダメダメな面。
架がこれまで付き合ってきた女性とは違う…。
交際が始まる。
交際始まって一年。
友人らにも紹介して、関係は良好。
一見順調に見えるが…、
真実を連れて友人らとパーティー。真実は帰ったその後。
男友達はいい娘じゃんと言うが、女友達はチクチク指摘。
気遣い過ぎて架が窮屈そう。あの娘も無理しちゃってる。
外野があれこれうるせーけど、核心も付いているような…。
後々になるが、女友達があの娘の好きな所は?と聞く。
それに対し架はお決まりのような答え。
さらに、結婚するなら何%?
架は“70%”と答える。これでも架にしては高めに答えたつもりだが、女友達はドン引き。
つまりそれは、架の相手に対しての採点そのもの。架にとっては真実は“70点”でしかないのだ。
高いか低いか、悪くもないが良くもないビミョーな70点…。
私も70点と聞いた時にはコイツどんだけ!?と思ったが、女友達もじゃあお前ら何点だよ?(キュートなイメージの桜庭ななみが嫌みあるハイスペック女性とは…!)
しかし、70点と言ってしまうのも納得の架の振る舞い…。
一年も経つと年齢も年齢だし結婚を考えるが、架はまたしても躊躇。
独身貴族でいたいのか、自分の理想と相手に求めるものが違うのか…?
煮え切らぬ態度を続けていたある日、真実から思わぬ問題を打ち明けられる。
ストーカーに付きまとわれている…。家の中にまで…!
怯える真実を守る為に、架は決心。プロポーズする。
真実も幸せそうに、二人で式の事などを相談していたが…、
真実が突然姿を消す…。
彼女に何が…?
ストーカー絡みの何か事件的なものと思うが、先にも述べた通りミスリード。
でなければ真実の知られざる壮絶な過去と思うが、確かに過去は関係するが、そんな大層なもんじゃない。
“ミステリー”と煽るのも果たして…。
真実の生い立ちや家庭環境、自身の性格などパーソナルな事。
しかし真実にとっては、人生を変える一世一代の大博打…。
真実の両親と会う。父親は話の分かる穏やかな性格だが、母親は…。キツイ性格と口調で架に詰め寄る。一見、娘の事を心配しているように思えるが…。
真実の姉と会う。姉は内向的な妹と違って利発的。アドバイス的な事もキツイ事もズケズケ言う。
その姉から真実が上京前、地元でお見合いをしていた事を知る。ストーカーはその見合い相手…?
結婚相談所の初老の女性と会う。その女性曰く、見合い相手は二人いたが、どちらも違うと言う。
女性に頼み込んで見合い相手に会う。二人共完璧とは言い難いが、真実に対して後腐れも無いようだ。
女性は寧ろ、真実に問題があったんじゃないかと言う。そしてあなたにも…。人を見る目に長けた結婚相談所の女性役で前田美波里が存在感。
以上の事から徐々に分かっていく。
地方都市で束縛の強い母親の敷いたレールの上を行くだけの人生。学校も。仕事も。人生全て。母親の言いなり…いや、問答無用の押し付け。(穏やかで優しい役が多い宮崎美子が意外な毒親!)
姉はそんな妹を心配しながらも、我の弱い妹に苛々していた。
母親のまた強引な勧めでお見合い。一方は容姿に満足せず、一方には痛い所を付かれ…。
全てが嫌になり、母親の猛反対を押し切って、自分を変える為に上京。
婚活。そこで出会ったのが、架。高学歴、若き社長、イケメン…全てに於いてパーフェクト。
上京してやっと手に入れた自分の人生、理想の相手。
が、架はいつまで経ってもプロポーズしてくれない。
焦りもあった真実は架の気を引く為にストーカーに付きまとわれていると嘘を付く。が、例の女友達にその嘘はあっさりバレ…。
聞いてしまった“70点”…。
ショックを受ける。
私の事、好きじゃないの…? 私の事、見てよ…。
その声は届かず…。
姿を消した。
薄幸のヒロインだが、客観的に見ればお騒がせ女でもある。人によっては女友達と同じく好かないタイプかも。
前半こそは架視点だったが、後半からは真実視点。こちらの方が引き込まれるものがあった。
原作小説を読んで架役を熱望した藤ヶ谷太輔も悪くないが、やはり奈緒の熱演によるものが大きい。
陰や不幸のある役のイメージ多いが、本作でも遺憾なく。内向的、弱さ、脆さ、悲しみや苦悩を繊細に。守ってあげたくなる儚げな魅力。自分を変えようと成長していく…。
奈緒が巧い。昨年は『先生の白い嘘』と本作で難役を熱演したのに、ほとんどの映画賞でノミネートされず、キネ旬でも一票も入ってない。オイ!
連絡取れなかった真実とようやく連絡取れ、架は会おうとするが、約束の場に真実は現れなかった。電話越しにストーカーの嘘や消えた理由、苦しい胸中を伝えて…。
二人の関係にピリオド。
真実は他県でボランティア活動をしていた。
当初は不器用で失敗ばかりでボランティアのリーダーの青年に叱られてばかりだったが、一年経ち、ボランティア活動にも慣れ、地元の飲み屋のママや地域の人たちとも親しくなり、リーダーの青年からは想いを寄せられ…。
母親の束縛、架との関係を経て、自然体の笑顔で自分らしく居られる場所。
町興しで傷の付いたみかんを使って何か案を巡らせ、地ビール作り。しかし地元の皆はビールの作り方を知らない。
真実に心当たりが…。
架が町を訪れる。真実は名を伏せ、あくまで仕事で。
契約も上手く行き、町を歩いていたら…
別れて以来、真実のインスタをフォローしていた架。そのインスタに上げられていた風景と同じ風景を見つける。
真実がこの町にいる…。
程なく、再会した二人は…
別れた彼女をインスタでフォローなんてドン引き男かもしれないが、真実の事が忘れられない。
ヨリを戻さないか?と聞くが…、
そんな架くんを見たくなかった。
ダメダメな所、恥ずかしい所、カッコ悪い所、自分のマイナス面をさらけ出し…。
それほど好きなのだ。
傲慢は誰か? 善良は誰か?
ストレートに考えると、傲慢=架、善良=真実だろうが、単純にそうではない。
架の中にも善良はある。善良に気付く。真実にも傲慢はある。見合い相手を断った理由他。
真実の母親や姉、架の女友達も。母親や姉が傲慢なのは真実を心配する善良からかもしれないし、女友達もあからさまな悪意は無かった(筈)。
皆が傲慢であり善良。私の中にだってある。
100点満点じゃない。70点は自分に対しての採点でもある気がする。
最後は結局そっちを選ぶのか…と思ったが(ボランティアの青年、メチャいい奴!)、70点と70点、補い合って。
傲慢と善良のカッコ悪くもやがて実りある恋愛をしていくのであろう。
寅さんの名言。大声出して、のたうち回るような、恥ずかしくて死んじゃいたいような恋をするんだよ。