「アメリカの威信」フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの威信
大胆かつ斬新な物語だった。
「月面での第一歩は捏造である」
そんな都市伝説?陰謀論?を真っ向からネタにした作品で、その成り立ちも含めて楽しめる稀有な作品だと思われる。
作中では月面のフェイク画像が撮影される。おそらくその技法は連綿と語られる「こうやればその映像は作られる」って事の再現なのではと思われる。
で、そこに至る経緯、キャラの配置が実にスムーズ。実際とフェイクがほぼ同じって設定が小憎らしい。
世界最大かつ最高のハリウッドって母体のクオリティまでアピールしてくる。
膨大なデータとそれを再現するに至る技術力。役者がヘボでもデレクションが生み出す魔法とか、噂を全て肯定した上で、それら全てを蹴っ飛ばす構成は楽しかった。
なんせ、捏造した映像は実在したと言っちゃうのだ。黒猫の飛び入りはすっごい刺激的だった。
たった1人の観客であるモーの脳裏には何が浮かんでいたのであろうか?
たった1匹の黒猫によってもたらされるアメリカの失墜だろうか?…目の前が真っ暗だったと思われる。
前半のキャラ紹介を含めた様々なエピソードが煩わしい事もあるのだけれど、当事の報道や情勢に明るい人なら思わずニヤけてしまう事も多いような気がする。
実際、この作品自体が大いなる茶番劇でフィクションなのであろう。とはいえ、映画の本質に忠実とも言える。創造し再現する。その原則に則った極めて正当な製法で作られているようにも感じる。
ただ、まぁ、この開き直り感というか、嘘を嘘と思わせない姿勢には感服してしまう。
主人公のキャラも楽しくて、詐欺というか虚構を生きてる女性なのだけれど、案外正直な部分も多くて、その印象も含めて、よく練られたキャラだった。
エンディングの滑り出しもそうだけど、あんな映像実際に撮れるわけがない映像だ。
単純に言えばヨリからヒキに、延々と引いていくのだけれど、このまま宇宙空間まで行くのかと思う程引いていく。
そんな結末を見ながら見るモノ聞いたモノが「真実」である事の境界線があやふやになっていくような感覚を覚えて、実に小気味よいエンディングだった。
そして、
アポロ11号から届けられる音声。それは疑いようのない事実として認識してはいるのだけれど、この作品を通して、ホントなのかなと疑ってる自分もいる。
さて、この世に溢れる情報や歴史にどこまで誠実さを求めていいのだろうかと、そんなへそ曲がりな感想をも抱く小癪な作品であった。