「虚飾と真実」フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
虚飾と真実
アポロの月着陸がフェイク映像だった、という有名な都市伝説の映画化。
もう発想からして面白い。
コメディ風だが意外にリアルな部分がある。
巨額の税金を投入する国家プロジェクトにおける、「宣伝」の重要性や、政治家への裏工作とか。
終盤の、カメラの部品が故障して電器店から強盗するくだりとか、猫がスタジオに入り込んでてんやわんやするとことかは、コメディ色が強すぎてちょっと白けた。でもこのへんは好みかな。
人間が月に行って地球に戻ってくるって、今の時代でもとんでもなくすごいのに、よく当時できたな、って思う。
(一説によるとアポロ宇宙船のコンピューターはファミコン並みだったとか)
フェイク映像説がいまだに根強いのもさもありなん。
でもこの映画は逆説的に、いろいろな角度から「フェイク映像説は無理筋」ということを示していて、そこがちょっとフェイク説を主張する人への批判になっていて、痛快だった。
ストーリーがアポロ計画を揶揄しているようで、実は超礼賛してる。
広報が月に着陸したときの言葉の候補を用意していたが、実際にはそれらは使われず、「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉はアームストロングが自然に思いついた言葉だ、ということになってるところとか。「本当に行った人にしかこんな名言思いつけないよ~」、みたいな。
この映画のタイトルの由来の曲「Fly Me to the Moon」は、もともとアポロ計画とは何の関係もなかったのだけど、アポロ計画のテーマソングのように使われたことがきっかけでヒットしたんだという。アポロ計画の理解の促進にも貢献したのだろうな。アポロ計画の広報に深い関係のある曲だったのか。なるほど。
この曲の歌詞の中に、「In other words, please be true(言い換えれば、真実であれ)」というフレーズが出てくるのだけど、この映画のテーマはまさに「虚構と真実」。
主人公のケリーは自分の名前さえも偽って、虚飾の中で生きてきた女性、NASAの計画責任者のコールは、真実だけに価値があると信じて疑わないクソ真面目な男性。しかし二人はお互いの理解を通して、ケリーは真実の尊さを、コールは虚飾の便益さを認め、生き方を変えるようになってくる。
コールが真実だけに価値があると頑固なままだったらアポロ計画は頓挫していたし、ケリーがフェイク映像を準備していることを告白しなかったら、それでも失敗していた。真実や虚飾を超えて大事なのは、目的を達成すること、ということか。