「アポロ計画陰謀論と映画の“蜜月”は続く」フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
アポロ計画陰謀論と映画の“蜜月”は続く
タイトルの元ネタは、フランク・シナトラがカバーして大ヒットしたことでも知られるジャズのスタンダードナンバー『Fly Me to the Moon』。軽快だが憂いも帯びた名曲の上品さに負けず劣らず、映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の着想は洒落っ気があってちょっと泣かせる。「人類初の月面着陸は捏造だった」とする陰謀論を題材にした映画はこれまでにも何本かあったが、本作は一味違う。初の月面着陸を成功させようとするNASAスタッフたちの真摯な努力に、雇われパブリシストに命じられた月面着陸のフェイク映像を作る裏ミッションがからみ、お仕事ドラマとロマコメの味付けで王道の娯楽映画に仕上がっているのが嬉しい驚きだ。
詳しい人には説明不要だろうが、月着陸と陰謀論と関連する映画の歴史を簡単に振り返ってみたい。1961年、当時のケネディ米大統領が1960年代中に人類を月に到達させると宣言。1969年7月にアポロ11号で実現するのは本作でも描かれている通りだが、その1年前に公開されたスタンリー・キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」には月面での基地とモノリス調査のリアルなシーンが収められていた。陰謀論自体は70年代半ばから出始めたようだが、転機は1977年の映画「カプリコン・1」。有人火星宇宙船カプリコン1が打ち上げ直前に故障したため、大掛かりなセットからのインチキ映像で成功をでっち上げるという内容が、「フィクションを装ってアポロ月着陸の捏造を暗に告発した」とする解釈を生み、この陰謀論が広く知られるのに一役買った。2011年の「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」は、NASAが月着陸で地球外生命体の証拠を得たが隠蔽したとする別バージョンの陰謀論をストーリーに組み込んだ。そして2015年の「ムーン・ウォーカーズ」は、米政府から秘密裏に依頼されたキューブリックが月着陸のフェイク映像を制作したとする陰謀論の一説をベースにしたブラックコメディだった。
映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の話に戻すと、主人公の2人、NASAのPR担当として雇われたケリー(スカーレット・ヨハンソン)と発射責任者のコール(チャニング・テイタム)は架空のキャラクターだが、アポロ11号の準備とマーケティングのかなりの部分は史実に沿っている。本作で初の映画脚本を手がけたローズ・ギルロイ(父親は『ナイトクローラー』監督・脚本のダン・ギルロイ)は、デイヴィッド・ミーアマン・スコットの著書『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』を参考にし、ジャーナリストからNASAの広報官に転身したジュリアン・シェア(男性)をケリーのモデルにしたことを明かしている。また、コールのモデルになったのは、アポロ計画に先立つマーキュリー計画で選抜された宇宙飛行士7人の1人だったドナルド・スレイトン。スレイトンは心臓疾患のため同計画の飛行士から外され、マーキュリー、ジェミニ、アポロの3つの計画を通じて飛行士運用を管理する役職を務めた。劇中でも描かれるアポロ1号の事故で死亡した飛行士3人のうちの1人はスレイトンの親友だったという。
こうしてみると、アポロ計画に関する相当部分を史実に基づきつつ、月着陸に関する陰謀論を巧みに継ぎ足して、宇宙開発のロマンと働く男女のロマンス、それに陰謀をめぐるスリルを軽妙にからめた娯楽作に仕上げたことに感心させられる。
BGMについても一点。「小さな恋のメロディ」でも使用されていたビージーズの『To Love Somebody』がロマンチックなシーンで流れて最高でした。
とても参考になりました。
ありがとうございますっ
ラブ・サムバディ♪のシーンと
アポロ1号レクイエムのシーンが
印象的で思わず涙
「完璧な嘘でもバレる」というカプリコン1の教訓が活かされてましたね。