「陰謀論をイジってぶっ飛ばす」フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
陰謀論をイジってぶっ飛ばす
アポロは月に行っていない、という俗説を逆手に取ったライトなコメディ。アポロ計画はもちろん実際に月に行くプロジェクトとして描かれるが(NASAの協力も得ているので当たり前)、万が一の時のために月面着陸のフェイク映像を準備しておこうかというフィクションを挟んで、陰謀論を笑いのネタに仕立てている。
政府関係者であるモーは何故、フェイク映像なんてものを作ろうと画策したのか。
スプートニク・ショックをもたらしたソ連に対抗しようと国力誇示に躍起になったアメリカ、1961年のケネディ大統領の宣言(「この60年代が終わるまでに人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」)、その後のアポロ1号の悲劇。泥沼のベトナム戦争への反感からくる国民の国への不信感。そんな時代の空気の中で、アポロ11号の月面着陸はまさに、絶対に負けられない闘いだった。
こうしてリアルな事情を振り返ってみると、そりゃフェイク映像の準備くらいはしておきたくなるわなあなんて、妙にモーの動機が生々しく見えてきたりする。それが図らずも陰謀論の育つ土壌になった。
そんな生々しさとのバランスを取るためか、物語のリアリティラインは低めだ。
ケリーはやり手と言うよりも、偽名で活動する詐欺師に片足突っ込んだような怪しげなやり口のマーケター。そんな彼女をNASAの中枢に入れて極秘任務に関わらせるところや、アポロに搭載するカメラを改造する部品調達のために、発射直前に電機店に侵入するくだりなどは、「フェイク映像制作の部分は全くのフィクションなんですよ」と強調するかのようなちょっとありえない展開だ。
こういう遊んだ展開のところでもうちょっと大笑いしたかったのだが、どかんと笑える場面はあまりなかった。
それと、ケリーとコールのラブストーリーもちょっと大味で、あまり刺さってこなかった。ケリーは嘘を操る人間なので(モーがケリーの弱みを握ったというのがフェイク協力のきっかけだったから、話の流れ上仕方ないのだが)、最後に改心仕草をされてもちょっとだけ眉唾になってしまうんだよなあ……でもまあ、そんなに生真面目に考えるような映画じゃないか……美男美女がくっついたからそれでよし。
モーを演じたウッディ・ハレルソンがよかった。怪しくて、軽やかで明るくて。ガタイのいいチャニング・テイタムとスタイル抜群なスカーレット・ヨハンソンのアメリカン・カップルぶりはなかなかの迫力だった。
キーパーソンならぬキーアニマルとして登場した黒猫は楽しかったし、アポロ11号打ち上げにまつわる映像の臨場感は見応えがあった。
不吉な黒猫シーンは場面に応じ3匹の猫を使って、CGなしで撮影したそうだ。クライマックスで、月面セットでの撮影を荒らしまくるシーンを演じたヒッコリーという猫ちゃんはなかなかの芸達者。もっとアップで見たかった。
格納庫から発射台に運ばれるロケットの姿や打ち上げの瞬間は、その迫力に引き込まれた。テレビ中継の画面など、当時の実際の映像を織り交ぜていたように見えた。パンフレットには、アーカイブ映像を組み込んだとの記述がある。
NASAの協力を受ける過程で、アポロ計画時代の膨大な未公開映像にアクセスできたそうだ。リアル映像の説得力もあいまってか、打ち上げの瞬間や空高く飛んでゆくロケットを見守る管制室の様子などから、当時の現地の人々の気持ちが伝わってくるようで、なんだかわくわくした。
ところで、フェイク映像制作のくだりで名前があがったキューブリックだが、「ムーweb」の記事によると(あの「ムー」です)、2002年にフランスで製作されたモキュメンタリー「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」において、彼がCIAに協力して月面着陸のフェイク映像を制作したという説が提唱されて以来、彼の名前は20年以上「月面着陸の事実はなかった」陰謀論と表裏一体のような形で認識されてきたそうだ。
映画「シャイニング」を検証するという主旨の2012年のドキュメンタリー「ルーム237」でもその説に触れる箇所があり、娘のビビアン・キューブリックが陰謀論についてSNSで「グロテスクな嘘」と声明を出すにいたっている。
「2001年宇宙の旅」の完成度の高さから湧いたであろうこういったキューブリックの「疑惑」も、本作はネタに昇華させた。
映画制作サイドはこのように陰謀論を笑い飛ばすが、全面協力したNASAは結構真面目に俗説の完全な火消しを狙っていたかもしれないと想像したりする。
フェイク映像放送を画策したとしてもおかしくないほどアポロ計画は困難なミッションであり、だからこそそれを実現した当時の関係者へのNASAのリスペクトが半端ないことは間違いないからだ。
あの恋愛パートが安っぽくさせてますよねw
私の場合は字幕がないので、スカヨハの早口な捨てゼリフ的なボケは、ほぼわかりませんでしたが、そこで観客が笑ってました。
かなり悔しいです😫w
私たち、あまり北米の政治とか近現代史とか、そこまで深く習ってないじゃないですか。それより、チャニングの役どころ、現実的には絶対ケリーなんか好きにならなそうですよね。www
当時の関係者へのリスペクト。
誰かが誰かを心からリスペクトしている姿は、門外漢の立場から見てても気持ち良く、あのガーデニングのシーンも私にはかなり刺さるものがありました。