「韓国がまだ貧しい時代のアクションコメディ、今は日本が置き去りですが」密輸 1970 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
韓国がまだ貧しい時代のアクションコメディ、今は日本が置き去りですが
1970年ですか、日本製品を密輸したがる時代ですね、独裁政権で庶民は苦しく、ことにも女性の地位たるや酷いもので。ピカピカの日本の電化製品は宝物扱い。韓国が民主化される1987年まではまだまだ先のこと。しかし、以降韓国の発展は目覚ましく、日本に追いつき追い越せの奮闘努力で、既に多くの国際指標も日本を追い抜き、パナソニックなんて時代は過去完了、サムスン、LGのブランド力は遥かに上、ここまでずっと日本は政治の貧困により停滞のまんま。
本作で描かれる実にダサい当時の風俗をこれでもかのリアルで描く背景に、韓国社会の余裕が感ぜられる。エンドタイトルにはIMAXのロゴも見えるわけで、海中撮影の巧みからしてもとうに邦画のレベルを飛び越えた、第一級のエンタメムービーとなっている。
アワビ漁の海女さんが韓国にもいるってのも初めて知りましたが、大漁の成果で船が港に向かう背景にモクモクと黒煙を出す工場が、遠景ではあるもののしっかり画面に映し出し、物語の要件を映像で示す。案の定の工場進出による負の要因を提示に、生き残りを賭けた密輸品争奪戦の幕が切って落とされた。海女さんが主役ってことは女性対男性(しかもほとんどクズ野郎)の構図で、知恵比べが肝要となる。この辺りはハリウッドやイギリスの洒落た悪党どもの分捕り合戦に近いエンタメの王道です。
ハリウッドで引く手あまたのエミリー・ブラントそっくりなキム・ヘスが、美人代表で暴れまくるのが見所で、豊かな胸の谷間も遠慮なく、ド派手なファッションが様になる。対するベテラン女優ヨム・ジョンアは何故か日本の木南晴夏に似て、押さえの演技が魅力。この要の2人とも50代とは到底思えないのが凄い。中盤からやっと登場の悪人にイケメン役ばかりだったチョ・インソンが現れ、本当にクズのクズワル役にびっくり。それにしても手下の貧相な男どもの、哀れな程の下衆風情の役者を揃えるのも、また見事。
しかし海上での自由自在に動き回るカメラからして、多分スタジオでのプール撮影と思われる。当然に背景は合成で、水中撮影のボリュームからしても美人女優さん達を危険な撮影には晒してないでしょう。なにより凄いのがほぼ全編に渡って流される韓国の当時の「演歌」でしょう。延々とノリが良く、コブシも回った熱唱が否応なく70年代に引き寄せる仕掛け。ファッションともどもダサいを包み隠さず押し通した作戦勝ちでしょう。
ただし、やられ、やり返し、が目まぐるしく、お話について行けないとこもありますが、勢いさえあれば気にもなりません。すっかり歌謡曲に酔わされ大満足の作品でした。